10「尚志」の碑(富春院)~明治期の啓蒙思想家中村正直と静岡~
中村正直は1832(天保3)年、江戸に生まれた。 江戸幕府の教育機関である昌平坂学問所で学び、1866(慶応2)年に、幕府がイギリスに留学生を派遣するときに、取締として同行した。 幕府滅亡により帰国する際、親しくしていたイギリス人から餞別として贈られたのが『Self Help』である。
帰国後、徳川家達や幕臣移住に伴って中村も駿府に移住し、1868(明治元)年に、駿府学問所(静岡学問所)の漢学一等教授となり、現在の静岡市葵区大岩の富春院近くに居を構えた。 これを記念した石碑「尚志の碑」が富春院門前に建てられている。 また、この碑の先の路地を左折すると、「中村敬宇先生旧宅跡」の石柱がある。 この静岡滞在の時代にS.スマイルズの『Self Help(自助論)』の訳書『西国立志編』、J.S.ミルの『On Liberty(自由論)』の訳書『自由之理』を出版した。 1872年の静岡学問所廃止の直前に上京し、明六社設立に参加し、啓蒙思想の普及に努めた。 のちに東京帝国大学教授、元老院議官、貴族院議員を歴任した。 明治時代前期を代表する思想家、教育者である。