パンくずリスト:このページは ホーム »の下の デジタルライブラリー »の下の しずおかの貴重書常設展示 »の下の 2025(令和7)年7月のWeb版貴重書展示「蘭学から英学へ」 です

2025(令和7)年7月のWeb版貴重書展示「蘭学から英学へ」

AN91

AN91
『英蘭・蘭英辞典

当館の特殊コレクション「葵文庫」は、蕃書調所(洋書調所、開成所と改称)、昌平坂学問所、仏語伝習所などを中心とした江戸幕府の公的機関の旧蔵書で、明治元(1868)年の徳川氏の駿府移封の際に静岡に将来されたものです。
その総冊数の7割弱を占めるのは洋書ですが、江戸中期以降に発展した蘭学の影響は色濃くはなく、蘭書の比重はそれほど大きくはありません。部数では蘭書が284部と最も多いものの、英書(269部)や仏書(242部)との差は小さく、冊数では蘭書は洋書全体の約3割にとどまっています。
福沢諭吉の『福翁自伝』には、蘭学を学んだ諭吉が開港された横浜を見物し、身に付けたオランダ語が役に立たず落胆すると同時に英語の学習を決意したことが記されており、蘭学から英学への転向事例として知られています。
「葵文庫」の蘭書の比重がそれほど大きくなく、英仏独書などの割合が多いのは、江戸幕府の各機関から駿府に移す図書を選んだ人たちが、今後の教育や研究に役立ちそうなものを意識的に選んだからなのかもしれません。

展示期間・場所

期間 7月1日(火曜日)~7月30日(水曜日)
場所 静岡県立中央図書館 閲覧室に入ってすぐの貴重書展示コーナー

展示資料一覧

画像をクリックすると、当館デジタルライブラリーの該当資料が表示されます。

書名等 画像 略説

AN91
『英蘭・蘭英辞典

(『English and Dutch dictionary』、『Nederduitsch en Engelsch woordenboek』)

英蘭・蘭英辞典

安政5(1858)年、安政の五か国条約により、横浜は開港しました。その外国人居留地を訪れた福沢諭吉は、それまで学んできたオランダ語が役に立たないことに気づき、代わりに英語を学ぶことを決意しました。横浜のドイツ商人から買った蘭英会話書を読むために辞書が必要となり、「ホルトップと云う英蘭対訳発音付の辞書一部二冊物」(『福翁自伝』より)を購入し、日夜独学で英語を勉強したそうです。
本書は『新英蘭・蘭英辞典』(英蘭の巻は1789年刊行、蘭英の巻は1801年刊行)の再版で、福澤諭吉が使用したものと同版の資料です。第1巻が英蘭辞書、第2巻が蘭英辞書となっています。

デジタルライブラリーへのリンク 英蘭・蘭英辞典 (左の画像は3コマ目)

AN173 新ポケット英蘭辞典

(『A new pocket dictionary of the English and Dutch languages』)

新ポケット英蘭辞典

ピカードが編纂した、オランダで発行された辞典です。ページ数は483pで、英語の見出しにイタリック体でオランダ語の説明がつけられています。
展示資料と同版の1857年に出版された第2版は、日本最初の英和辞典『英和対訳袖珍辞書』(えいわたいやくしゅうちんじしょ)の底本として使われました。本書に記載されたオランダ語部分を、主に1858年に出版された蘭日辞典である『和蘭字彙』(おらんだじい)の訳語によって置き換えて編纂したようです。
本書には、「洋書調所」「神奈川会所改」(かながわかいしょあらため)「静岡学校」の各印記があります。

デジタルライブラリーへのリンク 新ポケット英蘭辞典(左の画像は5コマ目)

K012/58
『改正増補 英和対訳袖珍辞書』(かいせいぞうほ えいわたいやくしゅうちんじしょ)

改正増補 英和対訳袖珍辞書

日本初の英和辞典『英和対訳袖珍辞書』は、文久2(1862)年に出版されました。しかし、発行部数はわずか200部で、訳語にも不備が見られました。そこで堀越亀之助(1835~1921)らはこれに改正増補を加え、慶応2(1866)年、江戸幕府の洋学教育研究機関である開成所から『改正増補英和対訳袖珍辞書』を出版しました。
前書き(PREFACE)には、まず文久版における堀達之助(1823~1894)の序文が掲げられ、その下に堀越亀之助による序文が続きます。堀越の序文では、改正増補版の出版に至る経緯や改訂の内容・程度について述べられています。これらの英文は、当時の英学者たちの力量を知る上で、貴重な歴史資料となっています。当館所蔵資料は標題紙や最終丁の記載から、慶応3(1867)年江戸再版の版木を流用したものであることが分かります。

貴重書展示一覧に戻る