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2022(令和4)年1月・2月のWeb版貴重書展示「葵文庫の洋学資料」

博物通論

AE162
『Rudiments of natural philosophy and astronomy(博物通論)

葵文庫の洋学資料

~Web版 貴重書展示~

『葵文庫』とは当館の特殊コレクションのひとつで、江戸幕府が収集した書物3,586冊からなりますが、中でも西洋の書物(洋書)は2,325冊と3分の2以上を占めます。その内容は工学や兵学のような技術書の割合が高く、翻訳に使われた仏蘭辞典などの辞書類も多く含まれています。

これは、19世紀以降、日本が欧米列強による侵略に対抗するため、経済の発展と軍備の増強を迫られたことによります。幕府は、鎖国時代から蘭学として学習されていたオランダ語を介してフランス語や英語の研究を進め、収集した洋書の翻訳を行い、西洋の技術や知識を積極的に吸収しようとしたのです。

近代における日本の急成長を支えた多くの書物からなる貴重なコレクション、それが「葵文庫」です。

展示期間・場所

期間 1月5日(水曜日)~2月27日(日曜日)
場所 静岡県立中央図書館 入口入ってすぐの貴重書展示コーナー
(期間中、資料を入れ替えて展示します)

展示資料一覧

画像をクリックすると、当館デジタルライブラリーの該当資料が表示されます。

書名等 画像 略説

AE162

『Rudiments of natural philosophy and astronomy(博物通論)
(前半のみ)

博物通論

著者デニソン・オルムステッド(1791-1859)は、アメリカのコネチカット州生まれの物理学者で天文学者、1855年にエール大学の教授になっています。

この本は当初アメリカで1858年10月に刊行され、のちに慶応2(1866)年に江戸の開成所で出版されました。

書名は直訳すると"自然哲学及び天文学の基礎"ですが、表紙には『博物通論』とあります。標題紙の「YOUNGER CLASSES IN ACADEMIES. AND FOR COMMON SCHOOLS.」により、少年向けの自然科学概説書であることがわかります。本文は平易な英語で書かれ、挿絵を多用しています。

当館は2冊所蔵しており、開成所と静岡学校の印記があります。

AO15

『DICTIONNAIRE COMPLET FRANCOIS ET RUSSE(仏露辞書)』
(前半のみ)

仏露辞書

本書はロシア海軍軍人ゴロウニン(17761831年)が文化8(1811)年、国後島(くなしりとう)で捕らえられた時に所持していた仏露辞書の2巻本の下巻(L-Z)である。上巻(A-K)は現在、一橋大学社会科学古典資料センターにある。ゴロウニンは本書をロシア語や西洋の知識を得ようと彼のもとにやってきた通詞や蘭学者にロシア語を教える時に利用した。

中村喜(よしかず)氏著「館蔵『仏露字書』綺談」(『一橋大学附属図書館史』)によると一橋本は表紙裏、見返しの左肩にゴロウニン自筆の識語「ワシーリィ・ゴロヴニーン蔵書/於ペテルブルグ、1802年5月16/値段、2冊14ルーブリ/27番(中村喜和氏訳)」が書かれている。

当館本も同箇所に貼付紙により見えない部分もあるがほぼ一橋本と同じ識語が見られる。またロシア語題紙に「蕃書調所」の印が捺されている。

AN77

『Mijne lotgevallen in mijne gevangenschap bij de Japanners(日本幽囚記)』
(前半のみ)

日本幽囚記

本書は、江戸時代に、ロシアの軍艦ディアナ号の艦長ゴロウニンが千島列島を調査中、国後島(くなしりとう)で部下と共に日本の役人に捕らえられ、蝦夷(北海道)の松前、函館で2年3か月の監禁生活を送った間に、日本について見聞きしたことを克明に記録したものです。

ゴロウニンの帰国後、1816年にロシアで刊行されると、時を置かずにヨーロッパ各国語に翻訳され、日本に関する信頼のおける貴重な資料として高く評価されました。

当館の所蔵本はオランダ語版で、第1巻の扉には、ゴロウニンたちの釈放に尽力し、ゴロウニンと交換でロシアより日本に戻された高田屋嘉兵衛(たかだやかへえ)の肖像が、感謝の気持ちを表す形で掲載されています。

日本では文政4(1821)年に高橋景保(たかはしかげやす)馬場左十郎(ばばさじゅうろう)(貞由(さだよし))がオランダ語版からの翻訳に着手し、その後杉田立卿(すぎたりゅうけい)青地林宗(あおちりんそう)に引き継がれ、遭厄(そうやく)日本記事』(当館所蔵資料:(写本)Q215/26 デジタルライブラリー「ふじのくにアーカイブ」で公開)として完成しました。

『日本俘虜実記 上・下』講談社学術文庫634 徳力真太郎/訳の下巻には、当館所蔵のオランダ語版と、『遭厄日本記事』が写真で紹介されています。

AE247

『Annual Report of the Chamber of Commerce of the State of New York, for the year 1858(ニューヨーク州商業会議所年報1858年版)』
(前半のみ)

ニューヨーク州商業会議所年報1858年版

万延元年(1860)の遣米使節団の際に、およそ500冊の図書が使節団に寄贈されたといわれています。これらの図書にはいずれも献辞があり、なかには新たに表装して金箔押文字で献辞が書かれたものもありました。葵文庫には10余部が所蔵されており、これはそのうちのひとつです。

表紙に日章旗が印刷され、その下に「To the Embassy from Japan」の金文字が入っています。

AJ22

知幾(さんぺいたくちーき)』
(後半のみ)

三兵答古知幾

「三兵」は歩兵・騎兵・砲兵、「答古知幾」はオランダ語taktiek(タクチーキ)で戦術・戦略のことです。

プロシア人ハインリヒ・フョン・ブラント将軍の原著を、オランダ人イ・ファン・ミュルケンがオランダ語訳し、さらに幕末の洋学者高野長英が「暁夢楼主人(ぎょうむろうしゅじん)」の名で和訳しています。

高野長英(1804-1850)は、幕府の対外政策を批判し逮捕されましたが、脱獄して江戸に潜伏しました。その潜伏を助けた田原藩医鈴木春山(すずきしゅんさん)は弘化3(1846)年に没しましたが、彼の遺志を継いだ長英は、翻訳完成3年後の嘉永3(1850)10月に自殺を遂げています。

影印が『高野長英全集』第3巻(第一書房 1978刊)に収録されており、当館所蔵資料には、静岡學校、静岡師範學校、番外書冊(昌平坂学問所)の印記があります。

AN79

『Woordenboek der nederduitsche en Fransche Taalen(蘭仏辞書)』
(後半のみ)

蘭仏辞書

ユトレヒトの出版業者フランソア・ハルマが編集したオランダ語とフランス語の対訳辞書。江戸時代で最も古くから知られた外国語辞書で、ハルマ和解(わげ)(江戸ハルマ)やヅーフハルマ(長崎ハルマ)の原本となった。当館所蔵の葵文庫本は第2版(1729年)で、表紙裏の貼り紙には「ハルマ 和蘭 仏郎西対訳辞書 辞之二十四 千七百二十九年 楓山 全二冊 上」とある。表紙裏には装飾的な筆記体で、長崎通詞楢林重兵衛(ならはやしじゅうべえ)のサインがある。

K070/3

『ヅーフハルマ(長崎ハルマ)』
(後半のみ)

「ドゥーフハルマ」「ズーフハルマ」とも表記されます。また、『蘭仏辞典』のオランダ語の説明部分を日本語に訳した『ハルマ和解』が「江戸ハルマ」と呼ばれるのに対して、「長崎ハルマ」とも称されます。

ヅーフハルマ

本書は、オランダ商館長ヘンドリック・ヅーフHendrik Doeff (1777-1835)が、オランダの出版業者フランソワ・ハルマFrancois Halma (1653-1722)編集の『蘭仏辞典』(第2版1729)を原本に、長崎の通詞(通訳)と協力して編集した蘭和辞典です。

本書は当時の最良の蘭和辞典とされ、写本が33部作られると、幕府や長崎奉行所及び江戸天文方に一部ずつ置かれたほか、その他の写本はさかんに転写されて全国で利用されました。また、最大の蘭和辞典でもあり、約4万5千の単語と5万余の短句・短文が収録されています。

翻訳には、日本語の意味を十分に示すために口語を採用し、例句・例文も取り入れています。この方法が厳密な例文と平易な訳文を生み出し、後の対訳辞書の模範となりました。

当館の特殊コレクション「葵文庫」には原本の『蘭仏辞典』AN79が所蔵されています。また、『ヅーフハルマ』『蘭仏辞典』の2点とも、当館のデジタルライブラリー「ふじのくにアーカイブ」で御覧いただけます。

AJ8

厚生新編(こうせいしんぺん)』
(後半のみ)

厚生新編

家庭百科全書の訳本です。本書は、フランス国ショメールの原著で、1743年版オランダ語訳よりの重訳です。徳川幕府は文化8年、浅草暦局内に蕃書和解御用(ばんしょわげごよう)を置き、高橋景保(たかはしかげやす)指揮の下、馬場佐十郎(ばばさじゅうろう)、大槻玄澤(おおつきげんたく)を訳員として、翻訳に着手しました。これは、公に洋書を訳読したはじめであると伝えられています。以後、天保年間まで継続しましたが、原著の全部を訳了するまでに至らなかったようです。本書は、昭和45年大阪で開かれた世界万国博覧会フランス館に出品するため、フランス政府から借用申込みがあり、その一部を出品しました。

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