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2021(令和3)年6月のWeb版貴重書展示 「明治の教科書」

小学化学書

375.9/136『小学化学書』

明治の教科書

~Web版 貴重書展示~

江戸時代、藩校では武士の子弟を対象に儒学などの教養科目を、寺子屋では庶民を対象に「読み・書き・そろばん」など実生活に即した学問を中心としていました。
明治になると、日本は欧米列強による植民地化の危機にさらされ、早急な近代化と富国強兵の必要に迫られました。
そこで、明治政府は"教育"こそが最重要な政策だと考え、明治5(1872)年に学制を発布し、近代的な学校制度をスタートさせました。
西洋知識を一般にも広め国家の近代化をはかるという政府の方針により、理系科目など実利に直結する実学が重視され、多くの新しい教科が生まれました。しかし、学制発布当時はまだ教科書が整備されていなかったため、民間で出版された啓蒙書や翻訳書が各教科の教科書として用いられました。

展示期間・場所

期間 6月1日(火曜日)~6月29日(火曜日)
場所 静岡県立中央図書館 入口入ってすぐの貴重書展示コーナー

展示資料一覧

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書名等 画像 略説

K083/139
『輿地誌略(よちしりゃく)』

輿地誌略1

輿地誌略2

明治初期の代表的な地理の教科書で、小学校や中学校で使われました。著者の内田正雄(1838~1876)は江戸生まれの幕臣であり、1863(文久3)年から1866(慶応2)年まで足かけ3年間オランダに留学し、各国の地理の資料を集めました。本書はこれらをもとにして編集された本格的な世界地誌で、一般国民への啓蒙書としての役割も果たし15万部以上が流布しました。

世界地誌の総説から、各地域の歴史・文化について述べられています。木版から銅版画、石版画と技法を変えて迫真性を追求し、異国の風景や風俗を活写した豊富な挿絵が魅力です。

375.9/136
『小学化学書』

小学化学書

『小学化学書』はイギリスの代表科学者ロスコウ、ハックスリー、スチュアート3名によって共同編集された『Science Primers』という叢書のうちロスコウの『Chemistry』を市川盛三郎が直訳したものです。

その序文には「其の主意たるや、徒(いたずら)に事物の理を論じ、生徒をして之を暗記せしめんと欲するに非ず、其の要する所は生徒を誘導し直に造化(自然)に接して自ら其の妙理を悟らしむるにあり。是が為に許多(いくた)の試験(実験)を設け、各事(自)専ら実地に就いて其の真理を證(証)するを旨とす」とあります。

ただ理を論じ暗記させるのが目的ではなく、生徒を誘導し直に接するために多くの実験をすることに言及している点が現代的で興味深いところです。しかし実際には当時の日本ではあまり実験はされなかったようです。

375.9/138
375.9/138-2
411.1/7
『筆算題叢(ひっさんだいそう)』

筆算題叢

本書は、凡例や内容から、G.P.Quackenbos(カッケンボス/アメリカの法学者であり教育者)の『A Practical Arithmetic』(1)とW.and R.Chambers(チェンバース兄弟/イギリスの出版業者)の『Introduction to Arithmetic』(2)の2冊の算術教科書が原著と考えられ、初学者向けの筆算の教科書として、抜粋、翻訳・編集され、授業で使われました。本書を教科書に採用する県もあり、写本なども作られて普及していきました。

編者の山本正至(まさし)(1835(天保6)年生)は、静岡県で教員として採用され、本書の編集にあたりました。生まれは福島ですが、算術修行のため各地を遊学し、下田在勤中に英語を、浦賀で航海術や測量術を学びました。そして、幕府の榎本艦隊に参加しますが、乗っていた船の座礁により新政府軍に捕らえられます。しかし、ほどなくして釈放され、その後静岡県に移住したという人物です。また、県職員として、かつて学んだ測量術を活かして各地の測量を行い、牧之原疎水事業に携わるなど、黎明期の静岡県に大きく貢献しました。

【参考】当館では特別コレクション「葵文庫」(江戸幕府旧蔵資料)として、(1)『A Practical Arithmetic』と、(2)『Introduction to Arithmetic』を所蔵しています。

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