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ごあいさつ

22年ぶりに静岡県立中央図書館に戻ってきました。長く離れていましたが、この間私は図書館との関係を、一利用者としてより深めてきたと思います。

自宅から歩いて行ける範囲に伊豆の国市立韮山図書館ができた時は我が家の書架が増えたような気分で小躍りして喜んだものです。今でも好きな作家の小説や雑誌を頻繁に借りに行きます。子供が幼いころには、児童図書コーナーに随分お世話になりました。図書館に行けば単調になりがちな日常に、何か新しい刺激が得られるのでは、という期待が常にあります。

私の利用する図書館は一つではありません。函南町立図書館は車で買い物に行く程度の範囲にあります。ここでは豊富な雑誌を読ませてもらい、調べものにも活用しています。レファレンスをお願いすることもあります。通勤途中にある三島市立図書館、沼津市立図書館など市街地の図書館は、蔵書もさらに豊富で、県立中央図書館の県内図書館一括検索システム「おうだんくん」を活用して目当ての本をあらかじめ確認して借りに行きます。私は用途に応じて様々な図書館を活用しています。

一方で、私は書店にも足繫く通います。書籍通販サイトも良く利用します。通販サイトも日々進化し、おすすめの本の紹介や目次等を読ませる機能は図書館でのブラウジングにより近づいている気がします。

さらに、インターネット検索を使えば、必要な「情報」がダイレクトに手に入ります。デジタル化された文献が直接掲載されていたりします。最近本を開くこと自体に煩わしさを感じる自分に気付き、愕然としました。もはや紙の本は「情報」にアクセスするための一つの手段の一つにすぎなくなりました。

 そして県立図書館です。市町立図書館が社会に不可欠なインフラとして広く認知され、インターネットサービスが高度化する中でも私にとって県立図書館の存在が消えることはありませんでした。調査研究図書館としての「最後の砦」である県立図書館は、過去から現在までの知の体系を体現するもので、それは新しい創造を生み出す源泉でもあります。

私と県立図書館の出会いは中学校にさかのぼります。初めて館内に入った時の厳粛な雰囲気、(当時の感覚では)気の遠くなるような数の書架と本、手に取った本の難解さに私はいたく感動したものです。それは、この世の「知の世界」の広がりと深さを身をもって感じたことによるものでした。今思えば、子供っぽい感傷ですが、県立図書館の本質は案外そこにあるのかもしれません。

久しぶりの図書館では新館建設に向け、職員の間にも高揚した雰囲気が感じられます。本年2月には設計者選定のプロポーザルが終了。今年度からいよいよ実施設計が始まります。新しい図書館は十分な開架スペースを有し、立地はアクセス抜群の東静岡駅前です。図書館のイメージは大きく変わるものと思われます。一方で、新館のサービスは現在のサービスの延長線上にあります。時代の変化の中で、利用者としての視座を忘れずに、職員とともに県立図書館の在り方について今後も模索し続けていきたいと思います。

令和4年6月

静岡県立中央図書館長 柴雅房