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名著・貴重書/洋書と明治初期の翻訳書
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(6)その他の稀覯本

AE14
Thomas Beale
“The Natural History of the Sperm Whale” London,1839.
トーマス・ビール『抹香鯨の博物誌』1839年、ロンドン

「抹香鯨の博物誌」
 
タイトルページ

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図1
 
図2
図1
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 この本は初版で200冊と少し刷られた内の1冊である。著者と同姓の人物の署名が内表紙にあることが先ず貴重である。水に揉まれたような周縁部の傷み具合はこれを日本へ持ち込んだ人の苦労を示すのかもしれない。1849年のアメリカにおいて既に稀覯本(きこうぼん)で、メルヴィルは『白鯨』を書く際これをロンドンから取り寄せねばならなかった。夥しい書き込みのあるそれは現在ハ−ヴァ−ド大学所蔵である。イギリスの画家ターナーも「ビールの書を見よ」という言葉を入れた題の捕鯨場面を4点セットで描いた。うち3点はロンドンのテート美術館に、もう1点はニューヨークのメトロポリタン美術館にある。彼の使った本が行方不明なのは惜しまれる。
 鯨や捕鯨に関する現代の著作にもこの書物からの引用がよくされているが、原書に遡る人は稀である。文章が晦渋なのと、[図1]のような挿絵で他の博物学者を揶揄するようにして批判する狷介な姿勢が好まれないのである。
 著者は解剖学教室助手から捕鯨船の船医になり、日本近海を中心とする航海から帰って後、救貧院の医師の傍ら、奴隷解放運動に関わって活躍した人物である。
 本書の前半は鯨の解剖学と捕鯨史、後半は航海記である。[図2]は小笠原諸島の父島に上陸する際、珊瑚礁の砕け波を間一髪すりぬける捕鯨ボートを描いた挿絵で、ボート上の7人の、右から二人目が著者である。

<参考文献>
    畑中久泰「葵文庫の鯨について」(Z68-3『海事史研究』第50号 1993年)

 
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