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図書館員の棚から3冊(第115回)(2018/08/10)

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図書館員の棚から3冊(第115回)(2018/08/10)


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図書館員の本棚拝見!
このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画を御紹介します。
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■第115回目は 静岡県立中央図書館 渡邉 潤さん、 仲本 由加さん です。■


1 『ぼくは勉強ができない』 
  (山田 詠美/著 新潮社 1993年)

 題名の勉強とはもちろん「学校の勉強」のことです。その勉強よりも素敵で大切なことがいっぱいあると考えている主人公の時田秀美くんの高校生活が舞台の短編集小説です。
 秀美くんは理解ある家族に支えられて生活していますが、クラスの仲間とのトラブル、部活動の仲間との考え方の違い、先生の指導に対する不満等に様々な思いを持ち、学校では居心地の悪さを感じています。しかし、友人や大好きな先生に影響を受け、変化していく姿が見られ、実際にその場で主人公の感じたことや考えが伝わってきます。
 短編集のためテーマが絞られていて非常に読みやすく、主人公の言動に賛同できる部分があるので、ぜひ高校生に読んでもらいたい作品です。そして高校生の実態や考え方が分かる作品になっているので、大人の方もぜひ一度読んでください。
                                           (渡邉 潤)                                                               

2 『カラスの教科書』 
  (松原 始/著 雷鳥社 2013年)

 近所で鳴いているカラスの声が大きくて目が覚めてしまった、という経験がある人もいらっしゃるでしょう。カラスの声はなぜ大きいのか?その理由は、国内でよくみられるハシブトガラスが、もともと山間部の広い森に棲んでいたからです。遠くの相手とコミュニケーションが取れるように、とても大きな声をしているのだそうです。
 そんなカラスは、マヨネーズやフライドポテトなど、脂っぽい食べ物が大好き。鳥類は恒温動物で、人間と同様基礎代謝の分まで食べなければ生命を維持できません。しかし、地上の生き物と違って、空を飛ぶためには体を軽くしなければならず、短時間の間に少量の食べ物を頻繁に摂取しています。日頃つい頻繁にお菓子や食べ物を口に入れる傾向のある人は、カラスの食事サイクルに親近感を感じてしまうかもしれません。
 この本にはこのようなカラスの生態が、著者の熱心な観察や研究を元に、詳しく書かれています。著者は、「カラスが大好き」と公言している研究者です。大学でカラスの生態を研究テーマとした後、カラスのことについて書いた本を何冊も出版しています。この『カラスの教科書』は、著者が、カラスに興味のある人はもちろん、カラスが嫌いな人にも楽しんでもらいたいと思い、書いた本だそうです。私は「カラスが嫌い」派でしたが、この本を読んで、カラスの生活状況や行動の理由を知ることにより、以前よりカラスに親しみを覚えるようになりました。興味のある方は、一度手に取ってみてください。
                                         (仲本 由加)

3 『日本奥地紀行』 
  (イザベラ・バード/著 平凡社 2000年)
 

 この本の著者イザベラ・バードさんは、19世紀にイギリスで生まれました。たいへん旅行が好きな人で、カナダやアメリカ、オーストラリアなどを見てまわったのち、日本や中国でも長い旅行をしました。この本は、彼女が1878年(明治11年)に、東京から北海道へ旅行した記録をまとめたものです。
 著者は、江戸時代が終わってすぐの日本で見たもの、聞いたものを、包み隠さず細かく描写しています。農村から出稼ぎに都会へ出て、人力車の仕事に就く若者たちのこと。洋服を来た日本人より、下駄を履き日本の着物をつけた彼らのほうがずっと大きく見えること。日本人の親たちが、子どもと遊び、玩具を与え、著者が驚くほど大切に可愛がっている様子。また一方で、貧しさのため病気にかかった親子ばかりの地域の人々の様子。魚や野菜が中心の、慣れない日本食への素直な感想。祭りのときには、一晩中太鼓の音が続いて眠れなかったこと。日本の寺院の様子や、著者が泊まった宿に押しかけて中を覗いていく日本人の強い好奇心。北海道へ渡ってからは、アイヌの人々の風俗についても詳しく書いています。
 私はこの本を読み、明治の頃、歴史の教科書には詳しく書かれない一般の人々がどんな暮らしを営み、どのような生き方をしていたかを、違う国から来た女性の視点を通して見ることができました。とても貴重な記録です。
※本書は、1973年10月に東洋文庫として刊行されたものが、平凡社ライブラリーとして出版されました。
                                         (仲本 由加)


 次回は 湖西市立図書館 兵藤 友美さん 金原 宥貴さん 鈴木 舞さん です。

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