図書館員の棚から3冊(第110回)(2018/05/25)
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■第110回目は 静岡県立中央図書館 永井満美 さん です。■ |
1 『14ひきのひっこし』 (いわむら かずお/作 童心社 1983年) |
子どもの頃、大好きだった絵本です。見開きいっぱい細かく描き込まれた絵を眺めていろいろ想像していたことを今でも覚えています。 14匹のねずみの家族が、自然いっぱいの森の中で新しい生活を始めるというお話です。途中、こわいイタチから身を隠したり、大きな川を力を合わせて渡ったりといろいろなことが起こりますが、ついに素敵な木のねっこを見つけ、皆で家づくりを始めます。 おとうさん、おかあさん、おじいさん、おばあさん、そして兄弟10匹と、ねずみが14匹も登場するのですが、全員にそれぞれ個性があります。力強くて寡黙なお兄さんがいたり、おとぼけさんがいたり、無邪気に走り回る小さな子がいたり。一匹一匹が丁寧に描き分けられています。会話がたくさん書かれているわけではないのに、絵を眺めているだけで、ねずみたちのにぎやかなおしゃべりが聞こえてくるようです。 いつの間にかねずみたちと一緒に家づくりをしているような気持ちになれる楽しい絵本です。 私のお気に入りは、家づくりが終わりみんなで食卓を囲んでいる場面です。おいしそうなパンやスープがテーブルの上に並び、家族皆が楽しそうに食事をしています。温かくて穏やかで幸せな空間がページいっぱいに描かれています。 子どもだけでなく大人も楽しむことができる絵本です。ぜひ手に取ってみてください。 |
2 『心に残る名作コピー』 (パイインターナショナル 2012年) 鉄道会社のポスターを見て、古都を旅したくなったことはありませんか?酒造メーカーの広告の影響を受けて、好きになったお酒はありませんか?広告ポスターは、日常生活の中にさりげなく存在し、いつの間にか私たちに大きな影響を与えています。 私の趣味は広告ポスター鑑賞です。駅や街に掲げられているポスターに、いつもつい見入ってしまいます。コピーを味わったり、デザインや色使いを楽しんだり、制作者のメッセージを想像してみたりと楽しみ方は無限大です。 私のお気に入りの本、「心に残る名作コピー」には1970年代から現代に至るまでの各時代の世論や流行を象徴するようなコピーが、たくさん掲載されています。コピーのみが抜き出されているのではなく、ポスターや広告の形態のまま丸ごと掲載されているのも魅力の一つです。また、年代別になっているので、時代の移り変わりやコピーのトレンドの変化を感じることができます。各コピーの下には親切な解説がついているので、ポイントも理解しやすいです。この本に掲載されているコピーの中で、私が最も気に入っているものは、1980年代の航空会社の作品です。強烈なインパクトがあり、見た瞬間に惚れてしまいました。 完成度の高い広告ポスターを思う存分楽しむことができる本です。たった1行で人々を虜にするコピーの魔力を味わってみてください。 |
3 『かなたの子』 (角田 光代/著 文藝春秋 2011年) 表題の「かなたの子」を始めとする8話の短編で構成されている作品集です。 8話それぞれ内容が異なるのでここではあらすじの紹介はしませんが、どれも身の粟立つような怖い物語です。迫りくる恐怖が臨場感溢れる筆致で描かれています。ただ怖いだけでなく、一つ一つの物語がとても深く、重いです。 生と死、過去と未来、条理と不条理、恨みと許しなどの本来、相反する概念の境界線がこの本の中では曖昧であり、幻想的で独特な世界が広がっています。また、読み進めていくうちに、自分の存在が不確かなものとなるような不安に襲われます。 それぞれの物語で、時代背景も舞台も異なるのですが、全ての作品がどこか繋がっているように感じられます。共通する点、物語の根底にあるものが何なのかは、掴めそうでなかなか掴めません。読み手によって解釈は様々だと思いますが、私は、「人間が生まれながらに持っている疚しさ」ではないかと感じました。 人はこの世に生まれる際、競争の末、命を得ます。「私」が生きている後ろには必然的に、「生まれなかった誰か」の存在があります。 競争を経て誕生した我々には、生まれつき他者を蹴落とす残虐性があるのではないかと私は考えています。そして、人は自身に残虐な一面があることを生まれながらに知っており、そのことに無意識のうちに疚しさを感じているのではないでしょうか。その疚しさから逃れられない恐怖が、この本の中で様々な形で描かれているように思います。 奥の深い作品です。ぜひ読んでみてください。 次回は 焼津市立図書館 守屋 綾子 さん、鈴木 愛美 さん、成岡 正子 さん です。 |