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図書館員の棚から3冊(第82回)(2017/03/24)

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図書館員の棚から3冊(第82回)(2017/03/24)

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図書館員の本棚拝見!
このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画を御紹介します。
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■第82回目は 東海大学付属図書館清水図書館 大倉 正次 さん です。■

1 『サピエンス全史 ―文明の構造と人類の幸福― 上、下巻』
  (ユヴァル・ノア・ハラリ/著 柴田裕之/訳 河出書房新社 2016年)

この本は2016年9月に発行された現在注目の図書です。地球規模で人類の歴史を概観する本書は、「文明は人間を幸福にしたのか」がテーマです。複雑な国際情勢、報道過多なグローバル社会、人類の今を冷静に分析してみようとした貴重な図書といえます。
人の噂好きから言語が生まれる、言葉から文字へ、そして映像へ、さらに芸術が生まれ文明となります。
キリンやチンパンジーを追い抜いて、生物の頂点に立った人類、サピエンスはしかし文明を構築したが幸せはつかめたのか、著者は饒舌で繰り返しの表現が多いのですが、読者を納得させる発想力が面白いです。日本に対する認識はやや平板ですが、グローバル社会の今日を代表する文明論だと思います。ぜひ一読を。

2 『風葬』 (桜木紫乃/著 文春文庫 2016年)

私の好きな女流作家の一人です。最初の出会いは『起終点駅―ターミナル』の表紙を見たときからです。裁判所で働いていた経験からか、ややヤサグレた男女の有り様を、北海道を舞台に語る作品が多く、男性的で原野にいてもしっかり立っている強い女性を描かせるとぴか一です。
『風葬』は、2世代に渡る母子の秘密を釧路平野を舞台に解き明かす、初期の長編ですが、密漁船時代の果てしない暗さに、人々の生活の闇が展開していきます。書道家の母を持つ娘、娘に関わるなぞ、二代にわたる教師の父と息子、古い旅館の女将と息子、すべてがつながって行くとき、やるせない涙香岬の出来事が濃霧の先に見えてきます。風のまにまに、すべてを葬りたいのでしょうか。


3 『コンティキ号探検記』
  (トール・ヘイエルダール/著 水口志計夫/訳 河出文庫 2013年)

子ども時代にコンティキ号に憧れました。南米ペルーの海岸から葦の舟を組み、南太平洋を航海した民族の移動を立証した、20世紀最大の大冒険は、様々に紹介され現代になっても憧れがとまりません。DNA鑑定の結果、インドネシアからの移住説が有力ではありますが、ヘイエルダールの冒険は心をとらえて放しません。それはなぜでしょう。私たちの中に未知なる物へ挑戦したい押さえがたい本能があるのだと思います。
周到な準備と大胆な行動、しかも大自然の大きな力にゆだねながら、人間と自然の対話が奇跡のように展開していきます。実録であることに涙が出てきます。2012年に映画化され再び注目されました。魅力は衰えることを知りません。


         次回は 静岡県立中央図書館 首藤 貴光 さん です。

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