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図書館員の棚から3冊(第75回)(2016/12/09)


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図書館員の棚から3冊(第75回)(2016/12/09)

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図書館員の本棚拝見!
このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画を御紹介します。
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■第75回目は 浜松市立都田図書館の皆さん です。■

1 『科学と科学者のはなし 寺田寅彦エッセイ集』
  (寺田 寅彦/著  池内 了/編 岩波書店:岩波少年文庫 2000年6月)
 皆さんには、こんな「?」はありませんか。
 「満員電車に乗ったら、後の電車の方が空いていた?!」「毎週〇曜日は天気が悪い?!」「金平糖の角はどうやってできるの?」「科学者はあたまが良いの?」「とんぼの体の向きはどうしてみんな同じなの?」・・・。
 日常のなかで見て、聞いて、嗅いで、感じることを“きっかけ”に、その現象や変化を子どものように観察して考える人、それが寺田寅彦です。
 「科学」というと、難しい数式や理論を想像する人が多いでしょう。けれどこの本は「寺田寅彦エッセイ集」です。収録されている随筆はどれも、身近な自然に起こっていることが、味わいのある文で子どもたちに語るように書かれています。
 「線香花火」では、子どもたちと線香花火をしているときに感じた郷愁から、寅彦は線香花火一本の燃焼メカニズムに興味を持ちます。また、涼しさは瞬間の感覚だと言い、そんな涼味とはどんなものかを様々な日常から見つけ出していく「涼味数題」。さらに、人間や自然がもたらした汚いものを浄化する蛆の力と蠅を題材にした「蛆の効用」では、自然界と人間社会の平衡という現在にも通じる視点があります。
 寺田寅彦は、明治・大正・昭和初期を生きた物理学者であり、随筆家、俳人でした。
 夏目漱石の作品に登場する人物のモデル(『吾輩は猫である』の水島寒月や『三四郎』の野々宮宗八)としても知られています。本書にも漱石との交流を描いた随筆があり、漱石から信頼もされていた寅彦の人柄がうかがえます。
 この本のなかでは、科学のみですべてを解決することはほとんどありません。その先には、読者ひとりひとりが持っている感覚や好奇心や観察につなげる余白を感じます。
 「尊敬する人物は?」と聞かれると、私は寺田寅彦の名前を挙げることがあります。そんな図書館員の棚にあった一冊です。


2 『初版 古寺巡礼』(和辻 哲郎/著 筑摩書房:ちくま学芸文庫 20124月)
 浜松市博物館では、124日まで「遠江の木喰仏」が開催されていました。
 木喰仏の“まんまるなほほえみ”を観ていて浮かんだのが“中宮寺観音の顔”です。

 ・・・あのうっとりと閉じた眼に、しみじみと優しい愛の涙が、実際に光っているように見え、あのかすかにほほえんだ唇のあたりに、この瞬間に(ひらめ)いて出た愛の表情が実際に動いて感ぜられるのは、確かにあのつやのお蔭であろう。あの頬の優しい美しさも、その頬に指先をつけた手のふるいつきたいような形のよさも、腕から肩の清らかな柔味(やわらかみ)も、あのつやを除いては考えられない
(本書288頁より抜粋)


 大正七年、学生だった和辻は友人たちと奈良の古寺を巡る旅をします。その時の印象記が『古寺巡礼』です。
 この旅で、著者の和辻哲郎が最後に訪れた古寺「中宮寺」。そこに腰かけていた「中宮寺観音」。その「慈悲の表情」に感動した和辻の「リアル」な感想が、この文に表れています。
 哲学者・倫理学者であった和辻哲郎は、日本精神史の分野で『風土』などの名著を数多く残していますが、『古寺巡礼』は若き頃の文章ということもあり、大正八年の出版後に何度も書き直しをしたそうです。といっても、この本に魅了されて、どれだけ多くの人が奈良を訪れたことでしょう。和辻は『古寺巡礼』のなかで、諸寺の仏像の美しさを生々しい情熱で語り、仏師へと思いをはせる楽しみを伝えてくれます。
 二十一世紀の「仏像ブーム」を経た今、「仏像ファン」という言葉も一般に使われるようになりました。仏像が好きな人もそうでない人も、時には和辻の文から仏像の魅力を想像してみませんか。これほど純粋な見方もあったのかと、美術鑑賞の奥深さを感じてみてはいかがでしょう。


 3 『のはらうた わっはっは』
   (くどうなおことのはらみんな/作 童話屋 20052月)

 児童書の詩のコーナーで書架整理をしていると、他の本よりひとまわり小さくて色あざやかな背表紙がいつも目に入ります。表紙も刺しゅうのようにかわいいデザインの『のはらうた』シリーズは、「のはら村」のなかまたち「のはらみんな」による詩集。今回紹介するのは「のはら村」生誕20周年記念の本です。こぶたはなこ、こぐまじろうなど「のはらみんな」1人1人の名前を見ていくだけでも楽しく、春夏秋冬の「のはら村」地図(図書館もあります!)を眺めるだけでもわくわくしてきます。冬の詩のふくろうげんぞう作「よるのみはりばん」は寝る前に読むとあたたかい気持ちになるのでおすすめです。また、この本の最後には「のはらみんなは、あなたと友だちになりたくて そして、あなたの『心ののはら』に住みたくて きょうも、にぎやかに、うたったり遊んだりしています。『またあした、あそぼうね』と」(本書157頁)とあります。元気がほしい時、図書館の棚に小さく並んでいる姿を見かけたらぜひ手に取ってほしいと思います。


         次回は 清水町立図書館 植松 秀子 さん です。 

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