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図書館員の棚から3冊(第43回)(2015/07/10)


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図書館員の棚から3冊(第43回)(2015/07/10)

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図書館員の本棚拝見!
このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画を御紹介します。
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■第43回目は 小山町立図書館 滝口 詩乃  さん です。■

 

1.『ドミトリーともきんす』(高野文子/著 中央公論新社 2014年)

ようこそ。ドミトリーともきんすへ。
ここは、寮母のとも子さん、娘のきん子さんが営む学生寮。
二階には、トモナガ君(朝永振一郎)、マキノ君(牧野富太郎)、ナカヤ君(中谷宇吉郎)、ユカワ君(湯川秀樹)という科学の勉強をする学生さんが四人暮らしております。
それでは、彼らのおしゃべりをちょっとのぞいてみましょう。
「なぜ鏡の中の世界では右と左だけが反対になって、上と下は逆さにならないのでしょう」
「植物の葉は一枚も無駄についてはいない…日夕天然の教場に学ぶ」
「雪は天からの手紙」
「数というのはあるのかないのか…フィクションに近くなっていくのです」
 
ここに収められているのは科学者の伝記でも、科学の解説でもありません。
紹介されている本も決してやさしいものではありませんが、日常の些細な出来事からはじまるおはなしと、静かに流れていく高野さんの描く絵の中に、この偉大な科学者たちの人となりが見えたようで、なんだかほっとします。
そしてまた、ここに登場する科学者たちの言葉の美しいこと。
科学者であり、詩人でもあるのです。
文豪と呼ばれる方が書くものだけが文学ではないことに気づかされます。
読書の幅も広がりますね。
目指すは理系女子(リケジョ)?
 

2.『かないくん』
(谷川俊太郎/作 松本大洋/絵 東京糸井重里事務所 2014年)

「きょう、となりのかないくんがいない」死は突然やってきます。
かないくんが作った恐竜も描いた絵も残されているのに、かないくんは写真のなか。
「しぬってただここにいなくなるだけのこと?」
いつもと変わらない友達。もう忘れているみたい…
これは、絵本作家のおじいさんが少年の頃を思い出して描いたスケッチです。
しかし、どう終えればよいのかわかりません。
ただ、「死んだら終わりまで描ける」とおじいさんは言います。
思い出の絵本の世界の中におじいさんの姿が見えます。
絵本の続きがはじまり、おじいさんが亡くなったことを知らせてくれます。
そして、このおはなしは「はじまった」で終わります。
 
死ぬことを考えることは、生きることを考えること。
おじいさんの言うように、生きている限り描けない絵本なのだと思います。
「重々しく考えたくない、かといって軽々しく考えたくもない」
谷川さんの言葉が静かに染み入ってきます。
そして松本さんの描く絵がなかなかページをめくらせてくれません。
小さな頃に見た光景のようで、ずっと心の奥の方に隠していた気持ちを見られて
しまったような気がしました。
見れば見るほど引き込まれていきます。
言葉にできないことは、無理して言葉にしなくてもいいのだと、
こんな自分でもいいのかも知れないと思わせてくれます。
そんな私は、松本さんの作品に出ていそうと言われ、少々図に乗っています。
 

3.『新編 銀河鉄道の夜』(宮沢賢治/著 新潮社 1989年)

夏の星空を眺め、星座の駅を辿っていると、ついついジョバンニ気分で
「銀河鉄道」に乗り込んでしまった!…こんな空想したことはありませんか?
隣には親友のカムパネルラ。ポケットにはどこまでも行ける緑いろの切符。
巡るのは北十字星、プリシオン、白鳥座のアルビレオ、ケンタウルスを通り
サウザンクロス(南十字)まで。
どこからともなくふわっと登場する奇妙な乗客たちにはとても愛嬌があります。
美しく描かれた景色が延々と自分のところまで続いていて、同じ空の下で舞台を
眺めているような不思議な感覚になります。星だけでなく、夜の暗い中でも色や
光の表現があちらこちらにちりばめられていてぺかぺかという言葉の印象が残り
ますが、そこがまた、この作品の本当の哀しみを表している気がします。
友達とのやりとりやちょっとしたすれ違いに傷ついたり、次々に現れる乗客たち
に困惑したり、少年の揺れる思いが切なく、作者宮沢賢治さんのやさしさと思いやりにあふれています。
是非一度、読んだことがある人はもう一度読んでみてください。
最初はどこかもどかしくて、なかなか進まなかったような記憶がありますが、
今は読むたびに発見があります。「永遠の未完」の魅力でしょうか。物語の背景や根底にあるものを知るとまた違った角度から読めるかもしれません。
 
  
        次回は 森町立図書館のみなさん です。
 

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