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図書館員の棚から3冊(第36回)


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図書館員の棚から3冊(第36回)

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 図書館員の本棚拝見!
 このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画をご紹介します。
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■第36回目は  伊東市立伊東図書館の皆さん です。■

 伊東市にちなんだ3作品をご紹介いたします。

1.『クラクラ日記』(坂口 美千代/著 文藝春秋 1967年)

 昭和の無頼派作家で、「堕落論」「桜の森の満開の下」また伊東を舞台にした小説「肝臓先生」などで知られる坂口安吾。その夫人の視点から描かれた日記であり、安吾の没後、銀座で「クラクラ」という文壇バーを営んでいた三千代夫人が、安吾との出会いからその突然の死までを自らとの恋愛・結婚生活を描いた自伝的小説風エッセイです。
 安吾が伊東に来たのは、昭和24年7月。忙しい執筆生活の中で催眠薬アドルム中毒となり、東大病院精神科に入院した後の転地療養のためでした。
 「アドルムという二十錠致死量の劇薬を、何の制限もなく飲み続けるということは誰の目にも明らかな自殺行為であり、それを唯々として中毒患者のいいなりに薬を渡している私と云うものは、そもそも何ものであろうか。」、「彼の飲むアドルムの一日量は、五十五、六錠になっていた。」
 ある時、安吾は「一度、自室の窓から階下へ飛び降りたいと云い出した。どうしても飛び降りたいと云う。オレはここから飛びおりることさえ出来ればナントカなると云うのだった。」、「私は必死に彼の腰にしがみつき、ちょっと待って、ちょっとだけ待ってと云って、しいちゃんを呼びたてた。・・・そしてふとんをかつぎ出し、しきつめた時、飛び降りたが上手くふとんの上に転がり、骨も折らず、カスリ傷も負わなかった。」などの逸話が描かれており、安吾の人となりがよく理解でき、読んでいて大変に興味を抱きました。
 その後、伊東に住み着くようになってから急速度で安吾は健康を回復していきました。このまま行けば、安吾は伊東の地に死ぬまで住みつくかと思われましたが、昭和26年の国税庁との税金問題で争ったあたりから怪しくなりはじめ、伊東競輪不正告訴事件によって再び鬱病がぶり返し、強度の脅迫観念に取りつかれて、ついに27年の2月、伊東を逃げて群馬の地に居を移しました。
 坂口安吾の伊東での生活ぶりが偲ばれて、興味のある方は読んでみてはいかがでしょうか。(内野 真絹)
 

2.『ぼくとおじちゃんとハルの森』(山末やすえ/著 くもん出版 2012年)

 伊東の自然を描いた児童書があると、知り合いに薦められたのが「ぼくとおじちゃんとハルの森」との出合いでした。伊東市は海山の豊かな自然に恵まれています。作者の山末やすえさんは、伊東市にお住まいですので自然には詳しいでしょう。本の舞台である鉢伏山は、どの地域だろうと思いながら読むのも楽しいかもしれません。
 さて、簡単に本の紹介をします。小学4年生の輝矢は、引っ込み思案のおばあちゃん子。学校では、唯一の友達が転校して以来いつも独りぼっち。自分から進んで友だちを作ることができません。ある日、祖母の弟であるモリおじちゃんが訪ねて来ます。モリおじちゃんは大工を辞め、伊豆にある山小屋に住むことにしたと言います。そして、輝矢はモリおじちゃんと一緒に、ひと夏を山小屋で過ごすことになります。モリおじちゃんと山小屋で生活しながら柴犬ハルの世話をするうち、輝矢は家族とのつながりに気付き、自信や希望を持ちはじめます。
 自然の中で少年が成長していく姿を描く「ぼくとおじちゃんとハルの森」は、小学生から大人まで幅広くお勧めしたい一冊です。(枝 有希子)

 
3.『テルマエ・ロマエ』(ヤマザキマリ/著 エンターブレイン  2009年)

                               
 伊東について書かれている本の3冊目として取り上げるのは、ヤマザキマリ先生の漫画「テルマエ・ロマエ」です。本作は阿部寛主演で実写映画化もされていますので、ひょっとしたらご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。単行本4巻に伊東市にある東海館をモデルにした温泉旅館が登場しますので、ぜひとも伊東に足を運んでいただき、入浴を楽しんでいただければと思います。
 さて、本の内容は、主人公である古代ローマ時代の風呂の設計技師ルシウスが、風呂で溺れることをトリガーとして現代日本の風呂と古代ローマの風呂をタイムスリップで行き来し、現代日本の温泉文化を体験するというものです。
 主人公のルシウスは2000年後進んだ現代日本の風呂文化を体験することで、その進んだ文化にショックを受けつつ、古代ローマでその体験したことを生かし、日本の風呂を再現することで風呂技師として名声を高めていきます。とうとう時の皇帝ハドリアヌスに目をかけられるほどになった主人公の行く末やいかに?
 この作品では、古代ローマ人である主人公が、現代日本の風呂文化を体験することで生まれる価値観のギャップを、テンポよく、コミカルに描いています。2000年後の技術格差を何とか埋めようと真剣に取り組む主人公と、温泉につかってゆるみにゆるんでいる現代日本人との対比におもわず笑ってしまいます。イタリア在住の作者による古代ローマの描写もすばらしく、古代ローマについてのちょっとした学習にもなるかもしれません。1話完結形式になっており、非常に読みやすいこの作品。身構えず気軽に手にとっていただきたい1冊です。(鈴木 規之
)※「東海館」は2014年2現在、観光・文化施設です。
 

         次回は 掛川市立中央図書館 前田 宏希 さん です。

 

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