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図書館員の棚から3冊(第14回)


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図書館員の棚から3冊(第14回)

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 図書館員の本棚拝見!
 このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画をご紹介します。
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■第14回目は藤枝市立岡出山図書館 松田 寛子 さん です。

 1.『風の中のマリア』(百田尚樹/著 講談社 2009年)

 人間からは嫌われ者のスズメバチ。そんなスズメバチにも自分達の暮らしがあり、それぞれの役割があります。スズメバチの中でもワーカーと呼ばれる戦士マリア、巣を守り、餌を取りに行くマリアの一生を中心に進んでいくストーリーです。この本を読む前と読み終わった後とではスズメバチに対する印象が全く違ったものになりました。スズメバチにさされたり、巣が見つかったりと時々話題になりますが、いずれも人間の敵としてスズメバチを扱っています。確かに人間にとっては害しかもたらさないスズメバチですが、マリアたちスズメバチにも自分の命がつきるまで戦い、巣をまもり、仲間を守らなければならないという生まれ持った使命があるのです。「弱肉強食」まさに言葉通りの世界が展開します。他の虫との戦闘シーンも多く緊張の連続ですが、無事巣に帰ることができた時の安堵感や仲間との語らい、恋なのかなと思われるところもあり、強いばかりではないマリアがいることも面白いと思います。
 日々、自分の役割を果たすべく奮闘している姿が凛々しくもあり、悲しくもあり、嫌われ者でも許せるような気がします。
 読み終わると、物語を楽しむと同時にスズメバチの生態についてもしっかりと学べるお得な一冊です。

 
2.『またたびトラベル』
 
(茂市久美子/作 黒井健/絵 学習研究社 2005年)

  「迷路のように続く、細い路地のつきあたりに、ひどくおんぼろな木造の二階建てアパートが建っています。・・・このアパートの名前はまたたび荘。一階に、小さな旅行会社があります。またたびトラベルです。またたびトラベルは、ふつうの旅行会社ではありません。」という文で始まるちょっと不思議な6つのファンタジーです。
  「あなたの心に一生残る旅を演出します。」の言葉通りのおはなしで、読んだ後は心が温かく、やさしくなれるような気がします。またたびトラベルの旅行に行けば、自分の希望がかなって人生が好転したり、いつの間にか忘れていた大切なことや粗末に扱ってきた物を思い出させてくれたり、また、背伸びせずありのままの自分でいることが大事なのだと気づかせてくれます。それを気づかせてくれるのが猫で、旅行の代金が猫に餌をあげることだというのもすてきだなと思います。いつも人間の側にいて私たちを見つめている猫、またたびトラベルが本当にあったらいいですね。いえ、この本を読むと「またたびトラベル」は本当にあるような気になるのです。



3.『チリンのすず』(やなせたかし/作 フレーベル館 1978年)

 昨年亡くなった、やなせたかしさんの作品です。表紙にはかわいいこひつじの絵が描かれていますが、それとは全く違う内容に衝撃を感じ、読み終わった時に心臓がドキドキしていたことを覚えています。
 こひつじのチリンを守っておおかみのウォーに殺されたチリンのおかあさん、おかあさんの仇を取ろうとウォーに弟子入りしたチリン。やがてチリンとウォーは「二人組のあばれもの」として恐れられるようになります。そしてついにチリンはおかあさんの仇を取ることができたのですが・・・。ウォーは死ぬ前に「おまえにやられてよかった。おれはよろこんでいる。」と言っています。一方目的を達成したチリンは「ぼくはおかあさんのかたきをとった。しかしぼくのむねはちっともはれない。ゆるしてくれウォー。・・・もうぼくはひつじにはかえることができない。」と言っています。チリンに対する母親の愛、母親に対するチリンの愛情、やはり親子の純粋な愛は強いと感じます。それにも増して、いつの間にか生じていたチリンとウォーとの愛情の深さにも感動しました。殺されたのにチリンを笑って許せる愛、自分の本当の気持ちがわかった時のチリンの後悔等、失ってはじめてわかるものが、この絵本の中にはたくさんあります。
 なぜ、チリンはひつじの群れに帰ることができないのでしょうか。仇を取ることは正義なのでしょうか、悪なのでしょうか。音を聞いただけでみんながふるえあがるチリンのすずは、いつ谷底へ落ちてもわかるようにと親がつけてくれたであろう頃の音にはもどることができないのでしょうか。


       次回は、藤枝市立駅南図書館 田中 英忠 さんです。

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