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図書館員の棚から3冊(第13回)


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図書館員の棚から3冊(第13回)

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 図書館員の本棚拝見!
 このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画をご紹介します。
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■第13回目は島田市立金谷図書館 永井 里子 さん です。

  小・中・高校時代に読んだ本の中から、印象に残っている3冊を紹介させていただきます。

1. 『ふらいぱんじいさん』 
 神沢利子 作/堀内誠一 絵  あかね書房  1969年1月 
 小学校入学の記念に親から買ってもらった思い出の一冊です。
玉子を焼くことが一番の生き甲斐だったふらいぱんじいさんが、新しい目玉焼き鍋の登場で出番を失い、台所を飛び出し、冒険の旅に出かける物語です。
今までずっと家の中で過ごしてきたじいさんにとって、ジャングルや砂漠での体験は驚くことばかり。

大海原で足を痛めてしまい、冒険も中断してしまうかと思われましたが、旅で出会った小鳥たちに助けられ、最後はじいさんの最も安らぐ場所での生活に行き着きます。
 堀内誠一さんの可愛らしい絵とポップな色使いが大好きで、何度も何度も繰り返し読んだ記憶があります。高齢者の生きがいづくり啓発のような内容と思われるかもしれませんが、決してそうではありません。「旅に出ることを唆すゴキブリ」「じいさんを鏡と間違えて覗き込み、クロヒョウになってしまったのかとショックを受けるヒョウの奥様」「じいさんのことをオバケと勘違いして、めそめそ泣きだしてしまうラクダの坊や」など、チビッ子達の心をわしづかみする要素も満載です。
初版から45年経っていますが、「絵本ではなく、お話の本で、低学年でも読めそうなものはありますか?」というレファレンスがあった時真っ先におすすめしている児童書です。

2. 『はつ恋』 
 イワン・ツルゲーネフ/神西清 訳 新潮社 1952年12月
 中学生の頃、カフカ、ヘッセなどの海外文学を好んで読んだ時期がありました。ツルゲーネフも当時読んだ作家の一人です。心に残っていた話ではありますが、どなたの訳だったか忘れてしまったので、今回は神西清氏訳のものを読み返してみました。「初恋」ではなく「はつ恋」版です。
 16歳だったウラジーミルは、隣家の令嬢20歳のジナイーダに弄ばれながらも彼女の魅力の虜となり、盲目的に想いを募らせます、しかし、彼女もやはり別の誰かに本気の恋をしていると知り、相手が誰なのかと悶々とする日々を送ります。そして、彼女があの厳格な自分の父親を愛していると知り、物語はクライマックスに向かいます。
 当時中学生だった私は、別に何もやましいことではないのに自分には早すぎるものを読んでしまったような気がしていました。この本を読んだことを友達にも言えず、黙って胸の中に秘めていたように思います。

 自分が友達のお父さんと恋に落ちるという禁断の状況を想像しただけで、ドキドキするやらぞくっとするやら…。今思い返すと笑っちゃいそうなくらい純粋でした。
19世紀のロシアを生きたツルゲーネフの半自叙伝でもある本書。

 それぞれが激しい想いを抱えているのに、誰も幸せにはならないという結末。
初恋未経験の方、ただいま恋愛真っただ中の方、「恋愛なんて言葉は、とうの昔に忘れちゃった」という方、まだお読みでなかったら、ぜひ一度手に取ってみてください。静かだけれど深く切ない感情の描写には、時代も国も超越し、共感できる部分が多いのではないでしょうか。

3.『鳥寄せ』 
 三浦哲郎 新潮社 1984年1月 
 高校三年の時、現代国語の模擬試験にこの小説が出ていました。
 前年度の共通一次の試験問題だったのですが、模試でよかったとつくづく思ったものでした。なぜなら、その物語に感極まり、涙で問題用紙が読めなくなるばかりか、その思いを引きずったまま終了時刻を迎えてしまったからです。(本番でこの問題に当たってしまった方は大丈夫だったのかな?)と心配になるほど、心にずしっと響く内容でした。受験シーズンになると、このことを思い出します。

出稼ぎに行っていた父っちゃは、慣れない仕事でへまばかりし、逃げるように村へ戻ります。しかし、おかしいことに、いつになっても家には帰ってきませんでした。

 あくる年の秋、父っちゃは裏山で見つかりました。見つけるのが遅すぎました。父っちゃは白い骨になっていました。木につるされたベルトのそばには、父っちゃのかばんがあり、中には家族へのお土産が入っていました。
母っちゃはその後、気が触れたようになり、日が暮れると縁側で鳥寄せの笛を吹くようになりました。「いま父っちゃを呼んでやっからな」と言って…。
いたたまれなくなったおらは、鳥寄せの笛を納屋の隅に隠してしまいます。母っちゃはしばらくしょんぼりしていましたが、ある日霞網を持って山に入り、とうとうそのまま戻ってきませんでした。

 今ではおらがその笛を鳴らしています。そんなことをしても仕方がないとわかっていながら、鳴らさずにはいられないのです…。

この話がずっと心に残っていて、大学生になってからこの話が収められた短編集「木馬の騎手」を購入しました。今では絶版のようですが、三浦哲郎自選全集の中にも収められていますので読むことは可能です。三浦哲郎さんの小説は重く哀しいものが多いですがなぜか心を惹かれます。秋から冬の寒い季節、一人静かに読みたい名作ばかりです。

         
  次回は 藤枝市立岡出山図書館 松田 寛子  さん です。 


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