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名著・貴重書/明治初期の啓蒙書
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(5)[明治初期の啓蒙書]3

渡部一郎(わたなべ いちろう)
991-23
K082-52
『通俗伊蘇普物語』(つうぞくいそっぷものがたり)
明治五壬申官許(明治5年)(1872年)
渡部氏蔵梓
(裏表紙に「駿州沼津書肆 尚古軒浦吉」とある) 6冊

タイトルページと序
 
扉のページ
タイトルページと序
扉のページ

 私たちに親しまれている『イソップ物語』は、紀元前6世紀ごろギリシアのイソップが作ったと伝えられる動物寓話である。
 訳者の渡部一郎(温)(わたなべ いちろう)(1837-1898)は、沼津兵学校の英学主任、一等教授並を勤めたが、その後東京に移って『通俗伊蘇普物語』を翻訳した。底本は、Thomas James“Aesop's Fables”1848 である。
 『通俗伊蘇普物語』第1巻の「例言」には、この本の意図がおおよそ次のように記されている。「私が翻訳したイソップの寓話は、婦女子に道徳を説く近道である。だからわかりやすいように原文の意に添いながら俗言俚語で書いた。子どもたちへ説いていただければ大変ありがたい」。そのため彼は会話の部分を江戸方言で訳した。
 そして各寓話の末尾には、渡部の教訓が補われている。例えば「狐と葡萄の話し」では、「なんでも手前勝手のものじゃ。自分の思ふ様になれば賞(ほめ)る。ならねば誹(そし)る。ここが情(じょう)の私(わたくし)する処じゃゆゑ常に戒めねばならぬぞ(補)」。
 渡部の『通俗伊蘇普物語』はその平易で優れた翻訳のために大いに広まり、小学校の修身の教科書として用いられるまでになった。

<参考文献>
    松本泉、前掲論文 (SZ01-3)
    片桐芳雄「幕末明治の洋学者・渡部温(一郎)覚書き(2)
    (Z05-ア2『愛知教育大学研究報告』33 教育科学 1984年1 月)
    なお、渡部一郎の略歴については、渡部一郎訳『陸軍士官必携』(AJ33)の項を参照

 
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