図書館員の棚から3冊(第114回)(2018/07/27)

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図書館員の棚から3冊(第114回)(2018/07/27)


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図書館員の本棚拝見!
このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画を御紹介します。
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■第114回目は掛川市立大東図書館 南部 明日香さん です。


1 『夜のピクニック』 
  (恩田 陸/著 新潮社 2004年

 昨年、「蜜蜂と遠雷」で直木賞を受賞した恩田陸さん。音楽を見事に文章で表現し受賞となりましたが、恩田陸ファンとして、個人的に作品の中でおすすめなのは「学園もの」です。
 なかでも「夜のピクニック」は、自分が高校生の時に出会い、恩田さんの小説にハマるきっかけとなった本です。
 貴子が通う高校には、1年に1度、全校生徒が24時間夜を徹して80キロを歩き通す「歩行祭」という伝統行事がありました。3年生の貴子は、自分だけの「賭け」を心に秘めて、高校生活最後の歩行祭を迎えます。
 貴子の「賭け」、それは「クラスメイトの西脇融に声をかけること」。簡単なことに思えますが、二人にはそれをするのが難しい秘密があります。
 この物語は、登場人物たちが歩きながら交わす会話や、感じたことが淡々と描かれていますが、歩行祭の24時間がじっくりと描かれることで、まるで自分もクラスの一員となって一緒に歩いているような感覚になります。また、小さな謎がちりばめられていて、続きが気になって仕方がありません。一心不乱に読んでしまうので、読み終えた時には、自分も一緒に歩行祭を歩き終えたかのような、心地よい満足感と疲労感(?)を感じることができるでしょう。
 「夜のピクニック」はさわやかな読み心地の学園ものですが、不気味な雰囲気が漂う「六番目の小夜子」(新潮文庫 2001年2月)や「ネバーランド」(集英社文庫 2003年5月)も、一気読み必至の面白さです。                                                                


2 『御書物同心日記』 
  (出久根 達郎/著 講談社 1999年) 

 図書館の棚を見ていて、たまたま目に入った「御書物同心日記」。読んでみると、なんと江戸時代の図書館司書の話でした。
江戸時代には、「書物奉行」と呼ばれる、江戸城内にあった将軍家の文庫・紅葉山文庫の図書を管理する役職がありました。「書物同心」は、書物奉行の下で働 く役人です。
 物語は、御家人の三男として生まれた主人公の丈太郎が、本好きを見込まれて書物同心の東雲家の養子となり、晴れて書物同心として働き始める場面から始まります。新米の丈太郎に、先輩方が丁寧に仕事を教えてくれるので、読者も一緒に書物同心の仕事を学ぶことができます。
 図書館では蔵書点検のことを「曝書(ばくしょ)」と言うことがありますが、元の意味は書物の状態を良好に保つため、虫干しにすることです。その際、書物の点検をしたり、蔵書目録と照らし合わせたりしていたようです。物語の中では、60日間をかけて行われる「曝書」も行われています。
 丈太郎たち書物同心が守ってきた紅葉山文庫の蔵書は、現在も国立公文書館などに保管されています。図書館の仕事は、脈々と受け継がれてきたのだなあと改めて感じました。

3 『青い鳥文庫ができるまで』 
  (岩貞 るみこ/作 講談社 2012年
 

 本は私たちの手元に届くまでに、どのような旅をしているのでしょうか。小・中学生に向けて分かりやすく描いた作品を見つけました。
 主人公は「青い鳥文庫」の編集者の若い女性。「モモタ」という愛称で呼ばれています。モモタが担当するのは「白浜夢一座がいく!」というシリーズで、12月に第14巻が発売することが決定しました。決定したのは3月です。この本は、出版社の企画会議で本の刊行予定が決まってから発売されるまでの9か月間、どのようにして一冊の本が出来上がるのかを描いたドキュメントです。「白浜夢一座がいく!」という本は実際にはありませんが、綿密な取材を元にして、実際に存在する「青い鳥文庫」シリーズで出る本という設定で進むので、リアリティがあります。
 編集者が作家から原稿を受け取った後に行われる、校閲や、本の装丁デザインなどの仕事も紹介されており、編集者は本が印刷されるまでの多くの工程に関わる人たちをつなげる、重要なパイプ役を担っていることが分かります。発売を心待ちにしている読者の期待を裏切らないように、どうにかして発売日に間に合わせようと奮闘する、編集者や出版関係者の皆さんの熱い仕事を垣間見ることができます。児童書ですが、大人にも紹介したい1冊です。


 次回は 静岡県立中央図書館 渡邉 潤 さん、 仲本 由加 さん です。 

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