図書館員の棚から3冊(第107回)(2018/04/13)

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図書館員の棚から3冊(第107回)(2018/04/13)


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図書館員の本棚拝見!
このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画を御紹介します。
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■第107回目は 静岡県立中央図書館の 池田 智幸 さんです。■

 新年度が始まりました。この季節は、卒業と入学(あるいは入社)という別れと出会い、終わりと始まりをとても意識させられる季節です。そこで今回は、そんな終わりと始まりの時期に読んでほしい本を、全くの個人的視点で、小学生向け・中学生向け・高校生向けという年代ごとに1冊ずつ選んでみました。

【小学生におすすめ】

1 『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』 
    ( 神田 桂一/著   菊池 良/著 宝島社 2017年 )

 〈完璧な湯切りは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。〉村上春樹の文体をもじったカップ焼きそばの作り方。この一文の見出しのみで、その場で購入を決めた一冊です。太宰治、三島由紀夫、川端康成などの文豪から、又吉直樹、星野源などの今をときめく人、さらにはビジュアル系バンドの歌詞やインスタグラム風文章まで、とにかく文体を模写してカップ焼きそばの作り方を100通りの文体で書かれています。そこには「本気の遊び」があります。大人が自分の興味に従って本気で遊ぶとそれが1つの作品になるということを感じられる本です。そのため、どんな馬鹿馬鹿しいことにも本気で取り組むことのおもしろさと大切さを知ってほしいという願いをこめておすすめします。さらには、多種多様な文体から自分のお気に入りの作家を見つけ、本物と出会うきっかけにもなりうる一冊です。文豪たちに出会う扉にしてみてください。また、もっと文体を楽しみたい人はレーモン・クノーの『文体練習』(朝日出版社 1996年)もおすすめです。


【中学生におすすめ】

2 『 おとなの小論文教室。 』
    (
山田ズーニー/著 河出書房新社 2006年 ) 

 タイトルに「おとな」とついていますが、ぜひ10代、しかも進路を考え始める時期に読んでほしい本です。特に「自分の未来は自分の頭で考えて決めたい」という人にはうってつけです。「考える」とは具体的にどうすることなのか。自分の思いを形にするためには何が必要なのか。そもそも思いを持つとはどういうことなのか。そうしたことに正面から真っ正直にぶつかっています。元々は「ほぼ日刊イトイ新聞」に連載されていたものなので、そこでの読者とやりとりなども生々しく描かれています。もちろん、山田さんは小論文の先生なので、「書くこと」のスキルアップを目指すことが大筋ですが、その枠を超えて、人とつながることの意味、自分自身を見つめることの意味さえも筆者とともに考えてしまう1冊です。世の中に出て様々な人とつながっていくことは、簡単ではないけれど素敵なことであると知ってほしいという願いをこめておすすめします。合わせて、シリーズの続きである、『理解という名の愛がほしい』『17歳は2回くる』『おとなの進路教室。』(全て山田ズーニー著、河出書房新社2006年、2006年、2007年)もおすすめです。


【高校生におすすめ】

3 『進化しすぎた脳 中高生と語る<大脳生理学>の最前線』
    ( 池谷裕二/著 朝日出版社 2002年 )

    
 最先端の脳科学を研究する筆者が中高生に向けて講義し、語り合った内容を書籍化したものです。僕はこの本を百町森で手に入れました。一気に読み終わり、なんでもっと早くにこういう学問と出会わなかったのだろうと後悔したことを覚えています。脳のポテンシャル、記憶の仕組み、ココロというものの不思議、そして自由意思とは何か。突き詰めていくと難しい内容のものをとてもわかりやすく的確に知ることのできる内容です。自分の頭蓋骨の中にあって、自分の体を支配している脳がどんな気分でいるのか。「脳の気持ちになって考える」ことで新たな世界に気づき、人としての在り方にまで思いを巡らせることができます。これからの世界を作っていく人たちに、人間という生き物の面白さや複雑さ、不思議さを知っておいてほしいという願いをこめておすすめします。合わせて、この本の内容をさらに推し進めた『単純な脳、複雑な「私」』(朝日出版社2009年)や同じ著者の『脳はなにかと言い訳する 人は幸せになるようにできていた!?』(祥伝社2006年)『脳には妙なクセがある』(扶桑社2013年)もおすすめです。


 次回は 静岡県立中央図書館の 杉田 雄祐 さんです。

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