図書館員の棚から3冊(第106回)(2018/03/23)

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図書館員の棚から3冊(第106回)(2018/03/23)


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図書館員の本棚拝見!
このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画を御紹介します。
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■第106回目は 裾野市立鈴木図書館の 内田 佑奈 さん、湯原 理恵子 さん、赤井 緑 さん です。■


1 『おもいで星がかがやくとき』 
    ( 刀根 里衣/著 NHK出版 2017年 )

 刀根さんは私の好きな絵本作家で、この絵本は刀根さんの作品の中で特に好きな一冊です。

 この絵本は、普通の絵本と比べ、サイズが大きくてインパクトがあります。それだけでも惹かれるのですが、とにかくイラストの美しさに目を奪われます。表紙のイラストは色合いがとても鮮やかですし、作中に描かれているキャラクターたちはすごく可愛らしいです。どのページも眺めているだけで癒されます。さらに、絵だけでなく、ストーリーも魅力的です。

 ある日、何も言わずに突然いなくなってしまった、ねずみのピナの大切なひと。ピナのなかまたちは、「そのひとはお星さまになったんだって」「とおくからきみのことをみまもっているんだよ」と言います。ピナはお星さまになったというそのひとを探すために、かつて二人で訪れたおもいでの場所へと行きますが、どこへ行ってもそのひとは見つかりません。やがて、空にとどきそうな木を見つけたピナは、てっぺんまで登り、夜空に輝くお星さまに問いかけますが…。

 大切な人との別れというのは、経験したことがある人にしか到底わからないものだと思います。その喪失感をピナはどう受け止め、どう乗り越えていくのか。最後のピナの仲間たちの言葉には、思わずうるうるときちゃいます。切なさ、悲しさのあとに、とても心が温まる素敵なお話です。

                                                                                          (内田 佑奈)



2 『 沈黙 』
   (
遠藤 周作/著  新潮社  1966 ) 

 遠藤周作は思わず吹き出してしまうような可笑しなエッセイをたくさん書いていますが、この小説はとてもまじめな作品です。

 物語は江戸時代初期キリシタン禁制の中、師であるフェレイラの棄教を確認するため、ポルトガルから二人の司祭が長崎の小島にたどり着くところから始まります。二人のうちの一人ガルペはその後殉教してしまい、もう一人の司祭ロドリゴ(主人公)がどのように生きていくかを描いています。

 他人を守るために、自分の最も大切なものを捨て、嘘をつく。これはなかなかできることではありません。民を救うために、踏み絵に足をかけたロドリゴの尊い行いがなぜ語り継がれないのか。「沈黙」は「神の沈黙」と言われることが多いのですが、そういった視点から読めば、「沈黙」は「民の沈黙」と言うこともできると思います。

 遠藤周作は数々の小説を書いていますが、ストーリーの展開は違っても根底に流れる思想は全くぶれることがありません。そして、その思想を最も顕著に表している作品が「沈黙」だと思います。天国の著者から「自分のためだけに生きるようなちっぽけな生き方はするなよ!」と笑ってメッセージを送られた気がしました。

                                                                                      (湯原 理恵子)


3 『斉藤さんがゆく』
    ( 祐天寺 与太郎/著 小学館 2011年 )

    
 何気なく絵本を探していた時に、何故かとても目を惹かれたのがこの絵本です。題名だけではどんなお話か全く想像がつかず、とにかく気になりました。いざ読んでみると、様々な意味で衝撃を受け、瞬く間に好きな絵本になりました。

 この絵本を大まかに言うと、ナイルワニに乗り、腰に刀を差したお侍姿の斉藤さんとこどもたちの少し…だいぶ変わったお話です。一話から六話まであり、そのどれもが不思議で可笑しくて思わずツッコみたくなります。

 例えば一話では、プールが故障して残念がっていたこどもたちの前に斉藤さんが登場したかと思うと、腰に差した刀からビーチパラソルを出し、ナイルワニにこどもたちを乗せたとたん、ワニの足が伸び、ハワイのワイキキビーチに到着します。そして遊んだあとはザトウクジラに乗って品川へ帰るのです。さっぱり意味がわかりません。でも読んでいると、この意味のわからなさがだんだんと癖になります。ある日はクマと相撲をし、またある日はおもちになる斉藤さん。腰の刀も日によってバリエーションが豊富です。また、話の最後に必ず斉藤さんがこどもたちに語りかける場面があるのですが、何かしらのせいでこどもたちにはいつも聞こえません。全話を通して読むとどこか哀愁さえ感じる、そんな絵本でもあります。ゆるい絵もこのお話の良さを最大限に引き出していてとても好きです。気付いた時には、この絵本の魅力にどっぷり浸かっていました。

 皆さんも斉藤さんの不思議な魅力に是非触れてみて下さい。

                                                                                              (赤井 緑)


 1年間ご愛読くださり、ありがとうございました。次回は 静岡県立中央図書館の 池田 智幸 さんです。

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