図書館員の棚から3冊(第105回)(2018/03/09)

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図書館員の棚から3冊(第105回)(2018/03/09)


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図書館員の本棚拝見!
このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画を御紹介します。
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■第105回目は 浜松市立都田図書館の 田中 咲子 さん、松原 史織 さん、中野 美紀 さん です。■


1 『ふしぎな木の実の料理法 こそあどの森の物語1』 
    (
岡田 淳/作 理論社 1994

 子どもの頃、図書館に行くと真っ先にお目当てのコーナーへ行って、シリーズものの中からまだ読んでいない一冊を探したものです。シリーズものの魅力は、物語の中の大好きな友達に何度でも会いに行けるということ。「こそあどの森の物語」は、そんな魅力を存分に味わうことのできる全12巻のシリーズです。

 シリーズ第1作目『ふしぎな木の実の料理法』は、内気で人と関わるのが苦手な主人公スキッパーが、料理法がわからないポアポアの実を手にすることから始まります。謎の実を前に、こそあどの森の不思議な住人たちが頭を悩ませます。

 何とも楽しいのが、登場人物の住む家!挿し絵が細かく描き込まれていて、こんな家に住めたらな、と憧れてしまいます。

 こそあどの森は “日本のムーミン谷”と評されたように、静かで温かく、どこまでも豊かで深い森です。読むたびに、スキッパーや森の仲間から「自分の世界を大切にしていいよ」と励まされる、素敵な物語なのです。

 それにしても、ポアポアの実のジャム!わたしも一匙、味見したいなぁ。

                                          (田中咲子)


2 『ヘヴンアイズ』
   (
ディヴィッド・アーモンド/著 金原瑞人/訳 河出書房新社 2003) 

 本を選ぶとき、タイトルも内容も関係なく表紙だけで選ぶことってありませんか?中学生の頃、美しい表紙に一目で魅了され、引き寄せられるように手に取ったのがこの作品でした。この本のおかげで、どこか薄暗くも幻想的で美しく優しい、独特なアーモンド作品の世界の虜になり、今でも大好きな作家の一人です。

 主人公は孤児院に暮らす女の子エリン。同じ孤児院の友達、ジャニュアリーとマウスと共に自由を求めて孤児院を抜け出し、ドアをつなぎ合わせて作った筏に乗り込みます。川を下って辿り着いた先は、真っ黒な泥が広がる「黒い泥沼(ブラック・ミドゥン)」。泥沼で座礁した三人は、両手に水かきのある可愛い女の子ヘヴンアイズと、彼女と暮らす奇妙な老人グランパと出会います。

 非日常への冒険と不思議な二人との出会い、悲しい秘密と別れ、そして起こる「奇跡」。ドキドキして夢中で読み進めました。それぞれ悲しみを抱えながらも進んでいく魅力的な登場人物達とその関係性がとても印象深く、特にエリンとジャニュアリーの深い絆は大人になった今でもグッとくるものがあります。

 切なくも優しくあたたかい気持ちになれる一冊です。丹地陽子さんによる素敵な装画にもぜひご注目ください。

                                          (松原史織)


3 『中国が愛を知ったころ 張愛玲短篇選』
    (
張 愛玲/著 濱田麻矢/訳 岩波書店 2017
    
 ワンピースの裾をまくり、内側に赤い斑点を刺繍する女性。背景には中国の花・牡丹が淡く描かれています。この近藤聡乃氏の装画を見たとき、少女の表情は穏やかなのに不安と怖さで胸を突かれたような気がしました。中国現代文学のことも著者のことも知らなかった私は、こうして「沈香を焚きながら戦前の香港の物語をお聞きください。」から始まる3つの物語を読みはじめました。

 一つ目の物語は「沈香屑 第一炉香」。1940年代の香港、複雑な人間関係をもつ社交界にデビューした少女が主人公です。報われない恋愛を経て彼女が決めた生き方とは…。

 二つ目の物語は「中国が愛を知ったころ」。1920年代、中国の家族制度の下で自由恋愛を楽しむ男女。しかし、楽しい時は長く続かず、恋愛、倫理、結婚、離婚を模索する姿は現在にも通じるものがあります。

 三つ目の「同級生」は1960年代のアメリカ。中国からの移民である主人公が幼馴染の女友達と再会する物語です。現在(いま)と幼少期からの回想が一方向的な時間の流れとは無関係に描かれることで、ふたりの女性の様々な差異が全体を通して浮かび上がってきます。

 物語の主人公のひとりはこう言います。「公平?人と人との関係に、公平なんて二文字はもともとありえないわ。」と。太平洋戦争、占領下、家族、慣習、恋愛、男/女、自由、経済が絡み合う時代のなかで、強くもなく弱くもなく、もがきながら「生きる」ことを続けた女性たちを感じてみてください。

                                          (中野美紀)


 次回は 裾野市立鈴木図書館の 内田 佑奈 さんなどです。

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