図書館員の棚から3冊(第98回)(2017/11/24)

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図書館員の棚から3冊(第98回)(2017/11/24)


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図書館員の本棚拝見!
このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画を御紹介します。
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■第98回目は 島田市立図書館の 岩本申久さん、横山佳世さん、尾川悠さん です。■

 
1 『旅猫リポート』  
    (有川 浩/著 講談社 2012

  今回紹介する本は有川浩さんの「旅猫リポート」という主人公の悟と猫のナナの物語です。野良猫のナナは、お気に入りの銀色のワゴンの上で毎日過ごしていました。結構生意気な猫で、頭を撫でさせるにも貢物を持ってこないと撫でさせないという誇り高き野良猫です。

 しかし、ある日道路を横断中に車に引かれ重傷を負います。そのときに浮かんだのが、いつも貢物をもってくるサトルでした。必至の思いでサトルの住むアパートへ行きます。サトルがナナの鳴き声に気づき、サトルとナナの同居生活が始まります。しかし、この楽しい同居生活にも終わりが迫ってきます。ある理由からナナを飼えなくなり、新しい飼い主を探す旅に出掛けるのです。旅先で出会うのは、サトルの旧友ばかり。一人ひとりに会うたびにナナの名前の由来やサトルの生い立ちがわかっていきます。ナナの飼い主を探すため、旧友を尋ねる物語かと中盤までは思っていましたが、サトルが旅にでた理由、そして、旧友に真実を語らない理由、ナナと別れなければならない理由、すべてが判明したとき、物語が一気に変化します。

 もともと複雑な家庭に育ったサトルでしたが、想像以上に複雑な事情がまだ隠されていました。本作品が単純なナナとサトルの旅物語で終わっていれば、あまり印象に残りませんが、ラストの展開は思わず涙がこぼれそうになります。猫は犬ほど飼い主に心酔することはないと言われていますが、ナナのぶっきらぼうな言葉の端々に見えてくるサトルへの愛が、強烈なインパクトとして心に残ります。2018年映画化も決定しているのでぜひお読みください。
                            (島田市立島田図書館 岩本申久)


2 『贖罪の奏鳴曲』
    (中山 七里/著 講談社 2011年) 

 物語は主人公である弁護士御子柴が、フリーの記者、加賀谷の遺体を遺棄する場面から始まる。御子柴は、作業中の事故により意識不明の状態で入院していた夫を保険金目当てに殺害した容疑で起訴された未亡人、東條美津子の弁護を担当していた。訳有りの富裕層から高額の弁護費用をとり、手段を選ばない弁護手法により法廷で勝利を重ねてきた御子柴が、金にならない東條の国選弁護を引き受けた理由は何だったのか。そして加賀谷の死の真相は、東條や御子柴にどう繋がっていくのか。

 「どんでん返しの帝王」と呼ばれる著者の作品は、終盤で登場人物が内に秘めていた感情を現し、善悪が反転する場面が二重三重に展開されるが、この本でも自分が見ていた景色が一変するような感覚が味わえる。

 人間の禍々しいまでの激情や浅ましさを読者に執拗につきつけるが、だからこそ同じ人間が見せる気高さや真摯さを際立って感じることができる一冊だ。
                             (島田市立島田図書館 尾川悠)



3 『神秘の島』上・下(福音館古典童話シリーズ)
    (J・ベルヌ/作 福音館書店 1979年)
    

 本を読んで物語に浸るって、本当に素敵なことです。この物語を読んだ後は特にそう思いました。部屋の中にいながら、こんな大冒険ができるなんて!

 この本は、うっかり無人島に来てしまった5人の男の、サバイバル巨編です。他の似たようなサバイバル話と違うところは、ただ食べて生きるだけではなく、何もない無人島で、人間として、また文化人としての誇りを失わないように生きるために、どうしたらよいかを常に考えているところです。島の土でお皿を作ったり、アザラシの皮で靴を、気球の布でシーツやシャツを作ったり。リーダーのサイラスさんの知恵で、何度も危機を乗り越えて、5人の男たちの結束はどんどん強くなります。5人それぞれのキャラクターもおもしろいです。

 とても厚くて、しかも上・下巻なので手にとられにくい本ですが、冒険なんて関係なくなってしまった大人にこそ、読んでもらいたい本です。きっと、子どもの頃のワクワク感をもう一度体験できると思います。
                            (島田市立金谷図書館 横山佳世)


 次回は 函南町立図書館の 牧野満枝さん、相庭瞳さん、大畑真依さん です。


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