図書館員の棚から3冊(第91回)(2017/08/11)

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図書館員の棚から3冊(第91回)(2017/08/11)

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図書館員の本棚拝見!
このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画を御紹介します。
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■第91回目は 静岡県立中央図書館 青木 俊明 さん です。■

 夏といえば、怖い話ですね。子どもの頃は夢中になって聞いた怖い話も、大人になると目にする機会がなかなかありません。そこで、今回は、大人向けの怖い話が出ている本を紹介します。


1 『夢十夜 他二篇』    
    (夏目漱石/著 岩波文庫 1986年)

 不思議な夢の話が十話出てきますが、怖いのは第三夜の話です。六歳の息子を背負った「自分」が、夜道を歩きます。息子は目が見えないはずなのに、今どのあたりにいるのかが分かり、分かれ道がくると進むべき道を指示します。さらに「自分」は、心の中まで息子に悟られていることに気付き、息子を森へ捨てようとします。その時、息子から「ちょうどこんな晩だったな」と言われます。「自分」は何のことか分からなかったので、息子に尋ねます。息子の答えは、「何がって、知ってるじゃないか」でした。息子の言う「こんな晩」に何が起きたのでしょうか。この話の結末は、ぜひ皆さんでご確認ください。


2 『遠野物語』
     (柳田国男/著 角川ソフィア文庫新版 2004年) 


 怖い話と言われて『遠野物語』を紹介する人はあまりいないと思います。ただ、『遠野物語』の序文を見ると、『遠野物語』の話は「目前の出来事」や「現在の事実」として書かれています。その前提で読んでいくと、恐ろしい話がいくつもあります。

 例えば、今でいえば誘拐のような話が第七話にあります。栗拾いに出掛けたまま行方不明になった娘が、数年後に村の猟師と五葉山の岩穴で再会します。その時、娘は「恐ろしい人にさらわれて、この岩穴に来た。逃げようと思っても隙がない。その男は、背がとても高く、目の色が我々とは違う。その男との間に子どもが何人か生まれたが、自分に似ていないといって食べてしまうのか、殺してしまうのか、どこかへ連れ去ってしまう」と失踪した時からの経緯を語ります。娘に「その男が今にも帰ってくるかもしれない」と言われ、猟師は恐ろしくなって逃げ帰るという話です。(この話の恐ろしい人は、巻頭の索引から「山男」だとわかります。)得体の知れない男に監禁される娘のことを思うと、心が痛みます。

 次のような天狗に関する話も第九十話にあります。何某が天狗森の麓の桑畑で居眠りをしようとしていたところ、赤い顔の大男が現れました。そこで大男に飛びかかったところ、投げ飛ばされ、気を失います。しばらくして何某が正気に返った時には、大男はすでにいなくなっていました。その年の秋、何某は村の男たちと一緒に早池峰山に萩を採りに行きますが、何某だけが行方不明になりました。山中を捜索してみると、何某は手足を抜かれて亡くなっていたという話です。この話では、誰が何某を殺めたのかは示されず、赤い顔の大男(赤い顔の大男は、巻頭の索引から「天狗」だとわかります)の犯行と暗示されるだけです。出会ったことがあるだけで殺されてしまうなんて、これも気味の悪い話です。

 凄惨な話ばかり紹介してしまいましたが、これらは事実として語られています。背筋がゾッとしませんか。ただ、『遠野物語』の個々の話は、昔話と同様、心情は語らずに出来事を語っていますので、それほど生々しくはありません。また、一話一話が短いですので、気軽に読むことができます。『遠野物語』には、よくよく読むと怖い話がこの他にもたくさんあります。皆さんも『遠野物語』で涼んでみませんか?



3 『将門記 陸奥話記 保元物語 平治物語』
    (新編日本古典文学全集 小学館 2002年)

 日本三大怨霊をご存知でしょうか。平将門、菅原道真、崇徳院の三人です。この中では、崇徳院が一番聞きなれないかもしれませんが、今回はこの崇徳院を紹介します。

 崇徳院は、保元の乱で後白河天皇方に破れ、讃岐国に流されます。讃岐に流された崇徳院は都への思いが断ちきれず、三年間かけて来世のために自分の血を使って五部大乗経を写経し、せめてそれだけでも都の近くのお寺に奉納できないかと後白河天皇に懇願します。しかし、後白河天皇は、それを拒否します。そこで崇徳院は怒り狂い、それ以後は髪も剃らず、爪も切らず、生きたまま天狗の姿になり、日本国の悪魔となって天皇を民に引きずり下ろすと呪いをかけ、都に戻ることなく讃岐の地で亡くなります。その後、崇徳院の呪いのためか、安徳天皇が壇ノ浦で亡くなったこともあり、崇徳院の怨霊は当時から恐れられました。怨霊に対する恐怖は近代になっても変わらず、明治天皇は崇徳院の御霊を京都に帰還させていますし、昭和天皇も昭和三九年の崇徳天皇八百年祭では式年祭を行っているほどです。つまり、変な言い方ですが、現役の怨霊なのです。

 今回紹介した崇徳院の話は、「保元物語」に出ています。古語で書かれていて読みにくそうですが、原文を読むと何となく意味がわかります。小学館の新編日本古典文学全集ならば現代語訳も付されていますので、この夏、ぜひ挑戦してみてください。



 次回は 静岡市立中央図書館 朝賀 皓一郎 さん です。


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