図書館員の棚から3冊(第89回)(2017/07/14)

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図書館員の棚から3冊(第89回)(2017/07/14)

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図書館員の本棚拝見!
このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画を御紹介します。
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■第89回目は 磐田市立竜洋図書館 鶴田 明美 さん です。■


1 『マカン・マラン』    
    (古内 一絵/著 中央公論新社 2015年)

 ショッキングピンクのボブウィッグをかぶり女装した大男“シャール”が主人公です。見かけが派手なため誰もが最初は驚きますが、思いやりのある優しい人柄で、昼間は世界に一つしかない手作りのドレスや小物を販売する服飾店、深夜はお針子達や常連客相手の夜食専門の深夜カフェを開いています。

 “シャール”の作る夜食は、素材をいかし、食べる人のことを考えた愛情と栄養のたっぷり詰まった美味しい料理で、店に集う様々な事情を抱えた常連客達の心と身体を徐々に優しく癒していきます。

 読んでいると、読者にも穏やかでゆったりとした時間が流れ、そっと寄り添ってくれるような作品です。続編も出版されています。

 (マカン・マランとは、インドネシア語で夜食の意味)


2 『春にして君を離れ』
     (アガサ・クリスティ/著 早川書房 2004年) 


 第二次世界大戦前、満ち足りた生活をおくっていたイギリス人女性の主人公が、バグダットにある娘の家に滞在した帰路、鉄道の不通というアクシデントにより砂漠の中間駅で足止めになったことにより起こる物語です。持参した数冊の本もすぐに読み終えてしまい、話し相手もなく、何もすることがなくなった主人公は、過去を振り返り自分自身を見つめ直していきます。すると、今まで何の疑念も抱いていなかった自分の世界が、大きく揺らいでいきます。いつも夫と3人の子どもの幸せだけを考えてきたつもりだったけれど、実は自分の考えを押し付けていただけで、家族を不幸にしていたのではないか…と。

 そして、鉄道が再開し自宅に戻った主人公は、今までどおりの日常に戻るのか、勇気を出し真実に向き合っていくのかの選択をします。

 ポアロやミス・マープルシリーズのように殺人事件は発生しませんが、主人公の心の揺れが繊細に描かれています。現代でも通じるテーマであり、とても心に残る作品です。

 クリスティがメアリ・ウェストマコット名義で発表した6篇のうちの1篇です。



3 『リアル』
    (井上 雄彦/著 集英社 2001年〜)

 主な登場人物3人の若者をめぐる車椅子バスケのストーリーです。(漫画)

・バイク事故で同乗した女性に車椅子生活を強いる傷を与えてしまい、高校を中退した元バスケ部員、野宮朋美(男性)は、見た目が怖く言動もがさつで誤解されやすい人物ですが、心優しい素直な人物です。

・戸川清治は父親にピアニストになる夢を押し付けられますが、中学一年の夏に陸上競技短距離走に出会い、有望選手として全国大会に出場するまでになります。そのさなか、骨肉腫により右足を切断し、そのショックでひきこもるなか車椅子バスケに出会います。熱中しすぎるあまりチームメンバーとの関係がうまくいかず、トラブルも絶えませんが、熱い心の持ち主です。

・高橋久信は、勉強もスポーツも器用にこなせるけれど、両親の離婚による心の傷を抱えたまま成長し、自分の殻に閉じこもっています。交通事故にあい下半身不随になりますが、周りの人々の助けにより過酷なリハビリにも耐えられるようになり、自分なりに車椅子バスケに挑戦していくようになります。

 置かれた環境はそれぞれですが、お互いの存在がそれぞれの背中を押す関係であり、苦しみながらもそれぞれ前へ進む若者のリアルな姿を描いています。

 “今日はダメでも、この道はいつかきっとどこかに繋がっている”そんな熱いメッセージが伝わってきます。読者に勇気を与えてくれる作品です。

 (コミックは、現在14巻まで出版されています。)



 次回は 下田市立図書館 鈴木 美鈴 さん です。


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