図書館員の棚から3冊(第88回)(2017/06/23)

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図書館員の棚から3冊(第88回)(2017/06/23)

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図書館員の本棚拝見!
このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画を御紹介します。
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■第88回目は静岡市立南部図書館の 澤田 隼一 さん です。■


1 『ららのいた夏』    
    (川上健一/著 集英社 1989年)

 坂本ららは、走ることが大好きな高校1年生。小杉純也は、プロ野球を目指す高校球児。二人の出合いは運動会の5kmマラソンでのことです。前年、ぶっちぎりで優勝した小杉は、今年も優勝候補でした。ピッチャーとしてのスタミナをつけるために普段から走っていた小杉には、陸上部の長距離ランナーも敵いません。50メートルも走らないうちにトップに立つと、中間点を過ぎたころには振り返っても誰もいないくらいの独走状態になりました。しかし、いくつか角を曲がると後ろから軽快な足音が迫ってきます。坂本ららです。二人は並走しながら会話を始めます。

 読み終わった後も屈託のないららの明るい笑い声や、走っている息遣いなどが聞こえてくるような青春スポーツラブストーリーです。

 私がこの本を読んだのは、中学生か高校生のころ。小杉純也と同じようにプロ野球を目指す野球少年でした。当時の私は、小杉純也と自分とを重ね合わせて読み進めていき、まさかの展開に涙を流した記憶があります。これを書くにあたって久しぶりに自宅にある本を開いてみたら、当時の涙で最後の方のページが滲んでしまっていました。


2 『ななつ星in九州 画集』
     (水戸岡鋭治/著 河出書房新社 2014年) 


 この本は、長年、駅舎や車両のデザインに携わっている水戸岡鋭治さんがデザインをしたJR九州のクルーズトレイン「ななつ星in九州」のデザイン画集です。外観のデザインだけではなく、各客室の内装や照明などの調度品、走行イメージなど細かなところのデザインまで掲載されています。この1冊を読むだけで、ぜひ「ななつ星in九州」に乗ってみたいと思うかもしれません。

  多くの方にとって鉄道は移動手段であって、乗っている時間というのは退屈な何もない時間かもしれません。鉄道のデザインなど気にも留めたことはないでしょう。でも、気にして見てみると新たな発見がたくさん潜んでいます。それこそ今まで鉄道に全く興味のなかった人ほど、こんなところにこんなものが!と思うことが多いと思います。この本をきっかけに鉄道のデザインにも興味を持っていただいて、旅行の移動時間もぜひ楽しんでみてください。


3 『かしの木のこもりうた』
    (ロバート・マンチ/原作 細谷亮太/文 いせひでこ/絵 
    岩崎書店 2014年)

 母は生まれたばかりの男の子の赤ちゃんを抱いて、やさしくこもりうたを歌います。

 庭の大きなかしの木に見守られながら赤ちゃんは2歳になり、8歳になり、ティーンのなかまになり、やがておとなになると育った家を出てひとり暮らしを始めます。その家の庭にも大きなかしの木が。

 やがて母は年を取り、今度は息子がなつかしいメロディーを歌います。そんな息子も若いとうさんに。今度はとうさんが娘を抱いて、やさしくこもりうたを歌います。親から子へ、子から孫へと続く愛おしい気持ちに、いせひでこさんの優しい絵によって包み込まれます。

 私が新着本の内容確認をしている時にうるっときた1冊です。絵本ではありますが、小さい子への読み聞かせには向かないと思います。むしろ中高校生や大人、あるいはこれから親になるかもしれない人が読んでもいいような内容だと思います。これを読んだあとにはきっと、自分の親や子どものことを思うことでしょう。

 次回は 磐田市立竜洋図書館 鶴田 明美 さん です。


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