図書館員の棚から3冊(第87回)(2017/06/09)

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図書館員の棚から3冊(第87回)(2017/06/09)

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図書館員の本棚拝見!
このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画を御紹介します。
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■第87回目は伊東市立図書館の皆さん です。■


1 『甲子園が割れた日 松井秀喜5連続敬遠の真実』    
    (中村 計/著 新潮社 2007年)

 平成4年8月16日(日)。何もかも平凡な夏の日でした。

 この日私は、毎年恒例となっているお盆の町内対抗ソフトボール大会を終え、近所の居酒屋で行われる打ち上げが始まるまでの間、高校野球観戦で時間を潰そうと考えながらも、当日の第3試合に組まれている、怪物(ゴジラ)松井を擁する石川県代表星陵高校と名門、高知県代表明徳義塾高校との好カードを見逃したくなく、打ち上げに遅刻するか否か悩んでいる中、試合開始となりました。

 当然のことながら、注目は松井選手の打席でありますが、何とこの試合で松井選手は一度もバットを振ることなく、その5打席全てが敬遠ぎみの四球という、高校野球を経験してきた私にとりましても、衝撃的なできごとを目の当たりにしました。

 私は松井選手に対してよりも、明徳義塾高校の馬淵監督やバッテリー、さらには、松井の次打者である5番バッターに対して興味が湧き、その後も両校が甲子園に出場するたびに、彼らのその後が気になっていました。

 そんな四半世紀前の夏の日に生まれた好奇心に応えてくれたのが本書です。馬淵監督の野球観、また、高校時代の情熱の全てを捧げて取り組んできた野球が不完全燃焼となった選手たちのその後についてなど、興味深く読ませていただきました。スポーツのあり方や勝利絶対主義に対し、いろいろな面から考えされる本、そして出来事でありました。(冨士 一成)


2 『人生を変えてくれたペンギン 海辺で君を見つけた日』
     (トム ミッチェル/著 ハーバーコリンズジャパン 2017年) 

 この本は、おはなし会のボランティアさんから薦められて出会えた一冊です。

 帯には、若き教師に助けられたペンギンと親友になるまでを綴った感動の実話とあります。でも、助けられたのは、ペンギンではなく人間の方だったかも。ファン・サルバドールと名付けられたこのペンギンの賢さと可愛らしさに、作中の人物だけでなく、読み手も夢中にさせられます。感動はもちろんですが、わくわくドキドキも味わえます。

 読みながら、本当に実話?と思ってしまったエピソードの謎が、最後に明らかになります。どうぞ、お手に取る際は、最終ページは最後にお読みください。(私はつい途中で読んでしまい後悔!)

 ファン・サルバドールが本当に幸せだったかは、彼自身にしかわからないと思いますが、私にとって、この本との出会いはとても幸せなものとなりました。(宮内 美穂子)


3 『百億の昼と千億の夜』 (光瀬龍/著 角川文庫 1980年)

 寄せてはかえし 寄せてはかえし かえしては寄せ。

 世界が始まり、生命が生まれ、古代文明時代を過ぎ、現代を過ぎ茫漠たる時の流れの先の話。阿修羅王、シッタータ、オリオナエ(プラトン)の3人が、「《シ》の命を受けたアスタータ50の惑星開発委員会によるヘリオ・セス・ベータ型開発とは何か?なぜ世界は破滅へ向かっているのか?」という謎に、ナザレのイエスと戦いながら迫っていきます。時空を超えて、次元を超えて3人はアスタータ50に辿りつきます。

 《シ》の目的とは何か?また3人に戦士としての使命を与えたのは誰か?「彼岸」等の宗教的な言葉、アトランティスの滅亡やゴルゴダの丘の奇跡等の神秘的な出来事の描写、そしてディラックの海やエントロピーの減少というような物理的な用語、ラストシーンの寂寞感。当時10代だった私は、いままで読んだことのない壮大な世界観をもつSF小説のとりこになってしまいました。

 哲学的な色合いの強いこの小説は何度読み返しても、時代が変わっても色褪せることはありません。一冊だけしか本を手元に置けない様な状況になったら、私は迷わずこの作品を選びます。また、この作品を萩尾望都が漫画化(秋田書店)していますが、そちらもすばらしい作品です。(松浦友子)


 次回は 静岡市立南部図書館 澤田 隼一 さん です。


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