図書館員の棚から3冊(第84回)(2017/04/28)

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図書館員の棚から3冊(第84回)(2017/04/28)

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図書館員の本棚拝見!
このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画を御紹介します。
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■第84回目は 静岡県立中央図書館 山ア 康平 さん です。■

学生時代、古本屋を自転車で巡回することが放課後の楽しみでした。
当時の私は過ぎ去りし時代の書籍や音楽を数珠繋ぎに掘り起こしては自分の中に取り込むことばかり考えていました。
本棚にお気に入りの本が並んでいく度に、自分が少しだけ成長できた気持ちになっていたことを今でも思い出します。
そんな当時から続く趣味趣向を背景に、近年琴線に触れた三冊をご紹介します。

1 『俺はまだ本気出してないだけ 1〜5』
     (青野春秋/著 小学館 2007〜2012年) 

タイトルがこの本の全てを物語っているといっても過言ではない1冊。
『俺はまだ本気出してないだけ』
この言葉を眼にした時、少しだけ胸がドキッとしたのはなぜでしょう。

妻と離婚後、父と娘と暮らす主人公の会社員シズオ。40歳のとき漫画家になることを決意し突然会社を退職してしまう。「店長」があだ名の下っ端アルバイト店員としてその日暮らしを続け、漫画家になる夢を追いかけるもデビューへの道のりは長く険しい。
父からは呆れられ、毎日のように説教を受けるがまったく堪えることを知らない。
高校生の娘は、そんな父と祖父のやり取りを優しい目で見守る。

繰り返される出版社への持ち込みと担当編集者から受けるダメ出しの日々。
これが俺の本気なのか?と自問するシズオ。
まだ本気出してないだけと自答するシズオ。
そんなシズオに「本気を出すとき」がいよいよ訪れる。

個性豊かな登場人物が織りなす人間模様と唸るほどに描かれるディテール、
泣き笑いのストーリー、そしてなにより他人事とは思えない主人公の言動!
果たして漫画家デビューの夢は叶うのか!?

タイトルを見てピンときた方、是非ご一読を。

2 『デジタル一眼レフの疑問300 基本編』
  『デジタル一眼レフの疑問300 撮影テクニック編』
     (デジタルフォト/編 ソフトバンククリエイティブ 2010年)

写真を見ること、写真を撮ることが趣味の1つです。きっかけは30年前、父が忘年会のお土産に持ち帰ってきた1台のポラロイドカメラでした。時代はフィルムからデジタルへと移りましたが、フィルムにはフィルムの、デジタルにはデジタルの魅力があると感じています。デジタル一眼レフカメラも手の届く価格になり、色々な場面で目にするようになりました。多くの関連書籍がありますが、当館にも所蔵があり、私がたびたび読みかえしてきた初心者〜上級者まで経験を問わず知りたい情報満載の解説本をご紹介します。

本シリーズは基本編、撮影テクニック編で構成され、それぞれ300問のQ&A形式でカメラの仕組みから使い方、撮影技法の基礎から応用まで知りたいこと、分からないことの答えに素早く辿りつくことができる一冊。多くの作例写真、各専門分野で活躍するプロカメラマンのツボをついた一言コメントが、一見すると難しいデジタル一眼レフカメラを身近かつ興味深い存在に感じさせてくれます。設定された300問のQ&Aは初心者なら誰しも疑問に思う内容、中級者の技術向上に応えてくれる内容、上級者も復習したい内容が網羅されています。

例えば、食べ物を被写体とした場合、逆光・半逆光で撮影するテクニック。
光が射し込む窓辺に料理を置いてカメラを向けてみると・・・
光と光が生み出す影が活き活きとした食材の表情を浮かび上げます。
少しの知識やアイデアにより今までの写真が見違えるような1枚になります。

デジタル一眼レフカメラユーザーはもちろん携帯カメラで写真を撮る際にも活用したい“使える”テクニックが満載のシリーズです。

3 『猫にかまけて』(町田康/著 講談社 2004年)

犬を3頭飼ってきました。
そして犬を3頭看取ってきました。
もう動物は飼わないと堅く心に決めていました。
図書館勤務が始まった春、1匹の黒猫と出会いました。
時に自分より大切な存在になりました。

今では4匹の猫を招き入れ、まったくもって猫にかまけた生活を送っています。

猫らしい、犬らしいと言うけれど
猫は頭に描いていた猫らしさを裏切る「らしさ」をもっていました。
おいおいと呼んでもフッとこちらを振り向いてスーッと歩いて行ってしまう。
人前ならぬ猫前ではけっして甘えないけれど、ひとたび誰もいなくなれば
グゥゥゥと鳴いて甘えだす。そんならしさを持っていました。

1980年代、伝説的パンクバンド「INU」のボーカリストとして活躍した筆者、町田康。作家としてデビュー後は芥川賞をはじめ数多くの賞を受賞。後に熱海市に移住し、数々の名作を世に送りだしています。『猫にかまけて』は、筆者が4匹の猫と生活する日々を珍妙で神妙な猫にかまけた視点と軽快愉快な言い回しで書き綴ったエッセイ集です。

『人間の利己的な欲望の犠牲になっている弱いもの、小さいもののまなざしは私たちを試すまなざしなのではないだろうか』 あとがきより引用

図書館の周りを音も立てずに歩く猫を見るたびに、この本に綴られた言葉を思い出します。私の大切な大切な1冊です。

        次回は 静岡県立中央図書館 太田 夏子 さん です。


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