リレーエッセー(第132回) |
「こんな図書館にしたい」「私の出会った図書館員」「心に残るこの1冊」など、図書館員の“おもい”をリレー形式で紹介していきます。
「螢の光 窓の雪」
小学校の低学年だった。ある夏の晩、いつものように飛び交う螢を追って
僕たち子供は闇の中で声を掛け合いながら竹ぼうきを振り回していた時だっ
た。突然目の前に赤い灯が現われ、太い男の声で名前を呼ばれた。タバコ
を吸っていた前の家の小父さんだった。――まもなく子供たちは螢狩りをしな
くなり、小川は排水路に姿を変え、螢はいなくなった。暗闇が怖くなったのは、
きっとあの時からだ。
豊橋に下宿していた大学生の冬の夜だった。ラーメン屋で酔っぱらいの中
年に泣かれた。「なあ、この辛さわかるだろう。」在日の同胞と間違われたの
だと後で気付いた。
今年2010年は、大日本帝国の韓国併合から百年目だ。初代朝鮮総督寺内
正毅の義理の叔父大久保春野が、当時の駐箚(さつ)軍司令官であった。戊
辰戦争の時の官軍側の民兵隊遠州報国隊や東京招魂社(後の靖国神社)で
名を上げ陸軍大将まで出世した人だ。磐田の見付学校の生徒たちは、総社
神主の家の生まれの彼の朝鮮への送迎に中泉駅(現・磐田駅)まで動員され
たという。
1919年の独立戦争(3・1運動)で上海に「大韓民国臨時政府」ができると、
文部省唱歌「螢の光」と同じ旋律の愛国歌「白頭山」が国歌に制定された。
「3・1ビキニデー」のある年の集会に小説家小田実が、この日は第五福竜
丸の水爆実験被災と同時に韓国の3月1日の件も考えてほしいと訴えたとい
う。彼の意見に賛同するが、1954年の映画「ゴジラ」も忘れないでもらいた
い。反核平和は日本国の精神だ。
私の公共図書館員の仕事ももうじき終わる。「行政改革」進行中の市役所
の中では、所詮「図書館ゲリラ」の一人であった。が、それも了とし「螢の光」
を口ずさもう。「書(ふみ)よむつき日かさねつついつしか年もすぎのとを……」
次回は 伊豆の国市立中央図書館 高橋伸枝さん です。