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HOME > 館長室から> ―館長のひとりごと― 平成31年_18


平成31年3月6日


                自由と法 (2)
                                    -スパルタ<2>-

 このとき(前480年)のペルシアの大軍を率いていたのは、国王クセルクセスでした。クセルクセスと、前スパルタ王のデマラトスとの間で、興味深い会話が交わされています。デマラトスというのは、権力抗争でスパルタの王位を追われ、ペルシアに身を寄せていた人物ですが、ペルシア王によって大いに優遇され、この遠征にも随行していました。前回引用した二人のスパルタ人の言動と比較すると、「うん?」といえるわけですが、個別具体的微視的にみていくと、ギリシア人でありながら、このようにペルシアに身を寄せた人物はスパルタに限らず存在します。
 ギリシア側からみればとんでもない裏切り者ですが、このあたりが、ペルシアの懐の深さというか、抜け目なくしたたかなところといえるのかもしれません。実際、地理や政情にも詳しく、亡命を強いられたことへの恨みも抱いており、ペルシアとしては重宝しました。

 さて、クセルクセスがデマラトスに問います。
「・・・果たしてギリシア人どもが敢えてわしに刃向かい抵抗するであろうか否か、わしに申してみよ。わしの見るところでは、全ギリシア人のみならず、西方に住む他の民族が束になってこようとも、彼らが団結しておらぬ限り、わしの攻撃を支えるに足る戦力は彼らにない。しかしながらわしは、彼らについてそなたがどのように考えておるか、そなたの見解も知りたいと思う。」

 ・・・デマラトスは次のようにこたえました。
「・・・これから申し上げるところはこれらのギリシア人全体についてではなく、ただスパルタ人のみについてでございます。私が申し上げたいことはすなわちまず、ギリシアに隷属を強いるごとき殿の御提案は、絶対に彼らの受諾するところとはなりませぬし、さらにはたとえ他のギリシア人がことごとく殿の御意に従うことがあろうとも、スパルタ人のみは必ず殿に刃向かい戦いを交えるであろうと言うことでございます。兵力の点で、一体彼らがどれほどの数があればそのような挙に出られるのか、などとお訊ね下さいますな。例えば、一千の兵力をもって出撃してきた場合、彼らはこの一千で戦いましょうし、また一千より少なくとも多くとも戦うことに変わりはないからでございます。」

 これをきいてクセルクセスが笑っていうには、
「デマラトスよ、一千の兵がこれほどの大軍を相手に戦うなどと、そなたは何という笑止なことを申すのか。・・・その数は一千であろうが一万であろうがあるいはさらに五万であろうが同じことであるが、それらの者たちが一人の指揮者の采配の元にあるのではなく、ことごとくが一様に自由であるとするならば、どうしてこれほどの大軍に向って対抗し得ようか。いわんや彼らの数を五千としたならば、わが軍の兵力は彼らの一人に対し千人以上であるにおいてをやじゃ。彼らといえどもわが軍におけるごとく、一人の統率下にあれば、指揮官を恐れる心から実力以上の力も出そうし、鞭に脅かされて寡勢を顧みず大軍に向かって突撃もしよう。しかしながら自由に放任しておけば、そのいずれもするはずはなかろう。わしの見るところでは、よしや兵力が同等であったとて、ギリシア人はペルシア人部隊のみ(※遠征軍は、ペルシア人部隊を中核とし、様々な従属民族からなる混成部隊)を相手にしても戦うことはむつかしかろう。・・・わしの親衛隊のペルシア人の内には、一時に三人のギリシア人を相手にして喜んで戦うと申している強者もいるのだぞ。そなたはかような事情に通じておらぬため、いろいろと戯言を並べるのであろう。」

 クセルクセスのこのような言葉に対して、デマラトスがいうには、
「殿、真実を申し上げれば、お気に召さぬことは、私には初めから判っておりました。しかしながらありのままを申すようにと殿から強ってのお言葉がありましたので、スパルタ人の実情をお話しした次第でございました。・・・スパルタ人は一人一人の戦いにおいても何人にも後れをとりませんが、さらに団結した場合には世界最強の軍隊でございます。それと申すのも、彼らは自由であるとはいえ、いかなる点においても自由であると申すのではございません。彼らは法(ノモス)と申す主君を戴いておりまして、彼らがこれを怖れることは、殿の御家来が殿を怖れるどころではないのでございます。
いずれにせよ彼らはこの主君の命ずるままに行動いたしますが、この主君の命じますことは常に一つ、すなわちいかなる大軍を迎えても決して敵に後ろを見せることを許さず、あくまで己の部署にふみとどまって敵を制するか自ら討たれるかせよ、ということでございます。しかし、もし私の申し上げましたことを戯言と思し召されるならば、これからはもう何も申しますまい。・・・」
 デマラトスがこのように答えると、クセルクセスは笑ってそれを聞き流し、少しも立腹せず穏やかな態度で彼を立ち去らせたのであった。
(ヘロドトス7巻101-105節)

 やや長い引用ですが、この二人の会話のなかに、東方の専制国家と西ヨーロッパの源流となる古代ギリシア(ここでは、その厳格な国家制度から、ギリシアにおいて、一見、「自由」からもっとも遠いと思われるスパルタ)、この二つの文明の、「自由」および「自由」と「法」についての考え方が、明瞭なコントラストをもって交錯する場面を見ることができます。

 余裕綽々のクセルクセスは、隷従に対するギリシアの強固な拒絶、デマラトスがクセルクセスの不快を承知で語った祖国のメンタリティの真実を、知ることになります。押し寄せる巨大なペルシア軍に僅か三百人のスパルタ兵(実際には若干、他のギリシア国も参戦していますが)が立ち向かった、テルモピレーの戦いでした。

 


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