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HOME > 館長室から> ―館長のひとりごと― 平成31年_16


平成31年2月1日


                自由と法 (1)

 フランツ・カフカ(※)の短篇のひとつに、「掟の門」(掟の門前)という作品があります。翻訳文庫本でわずか三ページほどです。ものの二、三分で読み終えてしまいます。ネットを見ると、たくさんの意見や感想が投稿されていて驚きました。読書離れなんて嘘ではないかと思ってしまいます。

 田舎から出てきた男(名前さえでてきません)が、「掟の門」から中へ入ろうとすると、怖そうな門番が立っていて、「今はだめだ」という。「後ならいいのか」と問うと、「たぶんな」と言われる。「ただし、入ると、次の部屋は俺さえ震えてしまう、もっと怖い番人がいるぞ」といって脅かす。

 男は門番が貸してくれた椅子に腰かけ、何年も待ち続ける。自分以外にこの門をくぐろうとする者が訪れることもなく、変だなと思いながらも待ち続け、ついに男は死を迎える間際、門番から「この門は、お前一人のためのものだった。門を閉めるぞ」と告げられ、作品は終わります。食事の場面も、睡眠の場面も、およそ人間生活と切り離せない日常は全て切り捨てられ、たったこれだけのストーリーで完結します。

 小説と呼べるのかな? にもかかわらず、あれこれと、想像、といいますか、感想というのか、取り留めもなくわき出してきます。
 男はどうして一歩を踏み出さなかったのか。門番が怖くても門をくぐればよかったのに、やはり勇気がなかったのか。人生を棒に振ったわけか。
 しかし、人に命令されたのではなく、消極的に見えて、自分の自由な意志で門の前にとどまったわけで、諦める自由もあったはずなのに最期まで踏ん張ったのだから、結構しぶとい性格の持ち主とも言えるかな。
 それにしてもこの男、今の時代なら、待てない、待たない、待ってもらえない、で追い立てられながらあくせく生きるのが一般なのに、よくここまで待てたな。待つという行為は、未来に期待し、ひとかけらであっても希望を持つことだよな。確かに絶望はしていないね。
 門番は、嫌な男だな、こういうタイプの人間、たまにいるよな、自分より力の弱い者に意地悪をする。しかし、自分に課せられた役割を文句も言わず果たしているわけだから、男より不自由かな。もしかしたら門番の方が、つまらぬ規則に縛られて、長い間、貴重な自分の人生の時間をこの男に付き合わされる羽目になった犠牲者なのかな・・・。
 などなど、「自由と掟」という視点から読んでみても、その解釈は、どこまでも膨らんでいきます。どこに着地すればよいのかよくわかりません。カフカ文学の持つ不思議な力です。

 カフカの長編、「城」の中でも、「自由」について次のような場面があります。K(これが主人公です)という測量士が城に雇われながら(Kがそう言っているだけなのですが)、一向にその城にたどり着けない、奇妙な物語です。
・・・そのときKは、これで他人とのあらゆるつながりが断ち切られ、もちろん、自分はこれまでよりも自由な身になり、ふつうなら入れてもらえないこの場所で好きなだけ待っていることができる、そして、この自由は、自分が戦いとったもので、他人にはとてもできないことだろう、いまや、だれも自分にふれたり、ここから追い出したりすることはできない、それどころか自分に話しかけることもできまい、とおもった。
 しかしそれと同時に、この確信も同じくらい強かったのだが、この自由、こうして待っていること、こうしてだれからも干渉されずにいられること以上に無意味で絶望的なことがあるだろうかという気もするのだった。
 それでKは思い切りよく中庭から立ち去ることにして建物の中に戻った。・・・亭主は・・酒場のドアのほうを指さした・・・Kは寒かったし、人恋しくてならなかったので、亭主の言うとおりに従った。・・・(新潮文庫 前田 敬作 訳)
 自由を獲得したことを誇りながら、おそってくる孤独に耐えられなくなり、他人の指示
に従う・・・
 実際の歴史の中でも「自由と法、掟、責任、孤独、不安、希望・・・」を巡り、個人、集団、国家と、多様なレベルで様々な出来事があります。


※ 現実とかけ離れた状況・場面設定の中で展開されるカフカの作品は、人間が直面する「不条理」を極限化して描いていると言われますが、私たちの日々の生活の中でも、「なんで自分にこんな事が、どうしてこんな目に・・・」という経験は、大なり小なり誰もが経験しているのではないでしょうか。
カフカの著書については当館でも多数所蔵しています。当館HPの蔵書検索機能を御利用願います。


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