辞書・辞典の系譜/解説(参考)
葵文庫
 

AJ-8
[「厚生新編」 70巻 68冊 (31,32 欠)]

 江戸幕府(暦局蕃書和解御用〜れききょくばんしょわげごよう〜)の事業として、ショメ−ルの家庭用百科事典のオランダ語訳から重訳した訳稿である。その量と質からいって、江戸時代西洋書翻訳事業中第一に置かれるべきものであり、この訳述事業が、当時の蘭学を公学にまで高めたといわれる。 馬場佐十郎(ばばさじゅうろう)、大槻玄沢(おおつきげんたく)、宇田川玄眞(うだがわげんしん)、小関三英(おぜきさんえい)、宇田川榕庵(うだがわようあん)などが翻訳にあたり、文化8年(1811)3月から少なくとも弘化2年(1845)8月まで約35年間訳述が行われたが、ついに昭和になるまで出版されなかった。また、この訳述がZまで訳了したかどうかも不明である。

 今日も使われているアルカリ、レッテル、ガスなどの外来語、馬鈴薯などの翻訳語は、厚生新編が初出といわれる。また、模写ながら遠近法による風景画も見られる。

 昭和45年、大阪で開かれた世界万国博覧会フランス館に出品するため、フランス政府からの借用申し込みがあり、その一部を出品した。

 当館初代館長貞松修蔵氏は、この膨大な稿本を毛筆で写し、これを原稿とした活字本を昭和12年(1937)刊行した。

 伝来の「厚生新編」は70巻(68冊)であるが、その後、古書店からその続編と思われる32冊が見出され、これも当館の所蔵となっている( 035−2 「厚生新編 雑集」) これによって、少なくともAからWまでの項が翻訳されていることが分かったが、それでも80〜100巻などかなり多くの部分が欠本のままである。

<参考文献>

035-1-2 「厚生新編」(活字本)
035-3 「厚生新編」(当館所蔵稿本の完全な影印本)
215.9-5 「厚生新編訳述稿」(板沢武雄 「日蘭文化交渉史の研究」所収)
031-スキ「江戸時代西洋百科事典 〜「厚生新編」の研究〜」 杉本つとむ編

巻之一「訳編初稿大意」冒頭
 
本文の一部
 
17巻の図
巻之一「訳編初稿大意」
(「はしがき」の意)冒頭
本文の一部

17巻の図