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図書館員の棚から3冊(第130回)(2019/03/22)

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図書館員の棚から3冊(第130回)(2019/03/22)


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図書館員の本棚拝見!
このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画を御紹介します。
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■【最終回】第130回目は 川根本町文化会館図書室 鈴木 梢 さん 中神 志緒里 さん 原田 みどり さん です。■

 
1 『シャンタラム 上・中・下』 
  (グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ/[著]  田口 俊樹/訳 新潮社 2011年


 オーストラリアの刑務所を脱獄し、インドのボンベイに潜伏した主人公がスラムやマフィアの世界で生き抜く姿がインド社会の混沌とした世界観の中に描かれている。
 私がこの本を初めて手に取ったのはインドの貸本屋でのこと。友人が薦めてくれていた本をふらりと入ったカフェの本棚に見つけ、嬉々としながら店員のインド人青年に差し出すと、「これか・・・、いつまでインドにいるつもりか・・・」と流ちょうな日本語でつっこまれた。確かに長い・・。上巻だけで700ページを超える、全3冊の半自伝的長編小説。読めそうにないと思いつつも暑すぎて観光もままならないので、ホテルにこもり、じっとりと汗をかきながら読みふけった。 (ちなみにインド人青年は奥さんが日本人とのことで日本語ペラペラ)
 
 作中の「インド人ほどお互い愛し方を知っている人々もいない」という言葉が、インドの旅の思い出と共に、時より脳裏に蘇ることがある。貧しく密集して生きる困難や、難しい社会構造の中では、素朴に愛し合ってこそどうにか暮らしていける。それがたくましく生ききる術。そんなインドの優しさと強さを色鮮やかに、かつディープに味わえる一冊。                                             
                                           (鈴木 梢)

2 『図書館にいたユニコーン』 
  (マイケル・モーパーゴ/作 ゲーリー・ブライズ/絵 おびか ゆうこ/訳 徳間書店 2017年


 山や森を歩きまわることが何よりも好きな少年トマス。
 お母さんにつれられてイヤイヤ入った図書館で、伝説の生き物ユニコーンと、ユニコーン先生と呼ばれる司書の女の人と出会います。ユニコーンの魔法!?のような先生のお話しにひき込まれ、図書館に通いだしました。やがて、村を戦争が襲い、トマスの村を焼け野原にしていきました。
 図書館も焼けてしまいましたが、戦火の中、救い出した本とユニコーンが皆の力となり、村は新しい図書館をつくりあげました。
 作者である児童文学作家のマイケル・モーパーゴは、史実を題材に戦争などの作品も多く、実際に図書館の本を救ったというロシア人司書の話をもとに、本書も書かれたそうです。
 物語中の「しんじてる」 この言葉が私には強く響き、メッセージのように聞こえてきました。
 本を宝物に思う先生の心が、お話しを聞く子どもたちに響いて、本の伝える力を感じ、ユニコーンのふしぎな力は、どんな時でも、可能性を信じる大切さを伝えているようです。
 平和であると思える今だからこそ出来ること。自分の可能性を目いっぱい拡げること。
 この本を通して、心から「しんじてること」をせいいっぱい実現させる意味に気づけたように想います。
                                                                               (中神 志緒里)

3 『春に散る 上巻・下巻』 
  (沢木 耕太郎/著 朝日新聞出版 2017年


 これといった興味もひかれないようなタイトルに思えましたが、大好きな本の1冊になりました。
 不本意な判定で敗れ失意のうちに渡米し、紆余曲折の末、ホテル事業で大成功を収めた元ボクサー。
40年の時を経て病気を機に帰国し、四天王と呼ばれた昔の仲間たちを巻き込んで、紡いでいく心温まるストーリーです。
 この主人公の「想い」が、周囲の人たちに助けられながら実現した、元ボクサーたちの老人ホーム、いやシェアハウス。お互いに相手を思いやり、協力しあい、とても楽しそうな日常。そんな暮らしをいつか自分もしてみたいと思ってしまうほどです。
 そして、ひょんなことから挫折しかけていた若者と知り合い、四天王たちが誰一人届かなかった「世界チャンピオン」という夢をその若者に託していくことになるのです。そのことが各々不遇だった昔を振り返りながらも前を向き、生き甲斐になっていく様子が清々しく感じられます。
 もう一人、不思議な力を持つ不動産屋の若い事務員、佳菜子。彼女は、いつでも誰にでも心地よい空間を作り出してくれる無くてはならない存在になっています。
 ボクシングの専門用語もたくさん出てきますが、わかりやすい描写がされていて何となく理解できるような気がします。
 主人公がアメリカで大成功した40年もの間、決して味わうことができなかったお金でも物でもない本当の幸せ。その幸せを、最後に心臓の発作で意識が薄れていく中、やっと手に入れることが出来たんだと信じて止みません。
                                                           
                                                    (原田 みどり)


「図書館員の棚から3冊」は、今回で終了いたしました。これまでご覧いただき、ありがとうございました。

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