図書館員の棚から3冊(第123回)(2018/12/07)
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■第123回目は 富士市立図書館 古谷 浩子 さん 宮本 桃代 さん 水谷 浩子 さん です。■ |
1 『いきもの寿命ずかん』 (新宅 広二/著 イシダ コウ/イラスト 東京書籍 2018年) 生まれ変わったら何になりたい? だれでも1回は考えたことがあるだろう問いだ。私も考える。頭の中で詳細にシミュレートしてみる。暇だなあと自嘲しながら。 そんなときに最適な、参考になる本を見つけた。『いきもの寿命ずかん』である。 動物図鑑を見ればその動物の平均的な寿命は載っている。しかし、この本のよいところは寿命だけではなく、寿命までの生存率や、ストレスや苦手な対象も明記されているところだ。しかもその生涯を端的に表現したキャッチコピーと解説もある。さっそく読んでみた。 アルダブラゾウガメ。カメだけに千年、とまではいかないが200年とかなり寿命は長い。しかも「美しい島でまったり散歩」とある。いいかもしれない。 しかし、いくら寿命が長くても、生存率が0.1%なんて言われたらその動物になることを躊躇してしまう。私は自分のことを運がいい方だとは思っていない。1000分の1に入る自信はない。生まれ変わる候補から外す。 生存率の高い動物を探してみる。プラナリアとクマムシは50%。私でも寿命まで生きられそうだ。しかしその寿命は2種ともに30日。天寿を全うしても約1ヶ月。やめておく。 この本には哺乳類から爬虫類、昆虫まで様々な生き物の生態と寿命が掲載されている。読み終わってわりと消極的に、「やっぱり人間でいいか」とつぶやく。今ある自分が恵まれていることを実感できる。人間でよかった。 あくまでも個人的な感想である。他の人の意見も聞いてみたい。 (古谷 浩子) 2 『ヴェネツィアの宿』 (須賀 敦子/著 文芸春秋 1993 年) -動物に人間と同じ感情があるかどうかはわかりませんが- あなたにもあるでしょうか? ふらふら彷徨ってしまう記憶や感情の落ち着く場所が…。私にとってこの本はまさにそれを与えてくれる1冊です。 著者はイタリア文学者、遅咲きのエッセイストとして、約8年という短い作家生活の中で珠玉の文章を残しました。どこか無国籍で無駄のない、それでいて優しさのつまった文章は心に落ち着きや安らぎを与えてくれます。 この作品は人生に大きな比重を占める家族や友人について様々なエピソードを交えて書かれています。舞台はイタリアや日本、時代もバラバラですが、回想録なので全編に懐かしく優しい雰囲気があふれています。 私の好きな表題作「ヴェネツィアの宿」では、石造りの街に染み込むオペラのアリアが記憶を過去に誘います。父親の回想で始まった話は、その父親の死で幕を閉じます。非常にわがままで若いころは強い反発を覚えた父は、最期には自分にとって大事な文学とヨーロッパという切符を手渡してくれた、自分とよく似た魂を持った一人の人間として認識されます。身近だからこそ納得できず、受け容れられなかった感情が落ち着く場所を見つけた瞬間です。 一人静かに本を読む。いつも周りに流されて生きることに迷ってしまう私に寄り添ってくれる本がある。ほんとうに幸せです。人間でよかった。 (宮本 桃代) 3 『エンデュアランス号大漂流』 (エリザベス・コーディー・キメル/著 千葉 茂樹/訳 あすなろ書房 2000年) 今から100余年前、人々が強い関心を寄せていた南極大陸探検。“エンデュアランス(不屈の精神)”と名づけられた船で南極へ向う探検家アーネスト・シャクルトンと乗組員たちは、起点となるサウスジョージア島を出発してわずか数日で流氷帯に行く手を阻まれます。 危険が迫り、自然の脅威に絶望する中、全員が一丸となってリーダーを信頼し、生還を果たすまでの一年半余りにわたる記録、最終的に南極大陸に到達することができなかったにもかかわらず、後に“偉大な失敗”と語り継がれる漂流記です。 隊員たちを思い、希望を失わず決してあきらめないシャクルトンのリーダーとしての姿勢、過酷な環境の中でもユーモアを忘れず明るく乗り切る乗組員たちの姿に心を打たれます。 (水谷 浩子) 次回は 富士宮市立中央図書館 遠藤 彩花 さん です。 |