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図書館員の棚から3冊(第121回)(2018/11/09)

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図書館員の棚から3冊(第121回)(2018/11/09)


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図書館員の本棚拝見!
このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画を御紹介します。
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■第121回目は御殿場市立図書館 熊倉 みどり さん 山﨑 剛史 さん 土屋 美貴 さん です。■

 
1 『月の砂漠をさばさばと』 
  (北村 薫/著 おーなり 由子/絵 新潮社 1999年)


 小学3年生のさきちゃんは、お母さんと二人暮らし。お母さんは大人のお話をつくるお仕事をしているけれど、寝る前には、さきちゃんのためだけに、どう転がるかわからないお話をしてくれます。
 題名の『月の砂漠をさばさばと』には続きがあります。「さーばのー みそ煮が ゆーきーました」。これはお母さんが夕食を作りながら口ずさんだ歌です。さきちゃんは思います。「広ーい広い砂漠を、さばのみそ煮がとことこ行くのって、とっても、かわいいじゃない」さばのみそ煮がどうやって、とことこ歩くのだ。かわいいというより、シュールだ!
 身の回りに起こることを、想像力豊かにふくらませて面白がったり、心配したり、勘違いしたり。二人の毎日は、ほのぼのとした、とんちんかんな、時にドキリとするほど真剣なやりとりがいっぱいです。
 さきちゃんの今だけの感性が言葉になって、お母さんに届きます。お母さんは、それをまっすぐ受け止めます。
 でも、大事な人だからこそ、中途半端なことばを飲み込んで伝えられないこともある。(さそりの井戸)
 どんなに親密な人でも、踏み込んではいけないと感じて封印してしまう言葉がある。(ふわふわの綿菓子)
 さもないことを、情景とともにふっと思い出すことって、誰にでもあるでしょう?さきちゃんもいつか思い出すのかな。そしてお母さんが言えなかった言葉を見つけるのかな。ふわふわの綿菓子をこどもと食べながら、あの時こんなことを考えていたんだよと、お母さんに言うのかな?
 ささやかだけど宝物のような時間。そんなお話が12の小編に綴られています。おーなり由子さんのナイーブでほっこりした水彩画の挿絵もすてきです。
                                        (熊倉 みどり)                                                               

2 『この本が、世界に存在することに』 
  (角田 光代/著 メディアファクトリー 2005年)

 この本には、「本」との不思議な縁を描く9編の物語が入っています。人と本との出会いは不思議なものです。いつか読んだことがある本にばったり出会ったり、「こんな本読んだかなぁ」と手に取ってみたり…あなたもそんな経験があるのでは?
 実は私も、この本に4度出会っています。最初は中学1年生のとき。当時角田光代さんの作品にハマッていた私は、近所の本屋さんで出たばかりのこの本を購入しました。2回目は家を建て替えるとき。部屋の整理をしていると、棚の奥からひょっこりとこの本が出てきました。
 数年が経ち、私は進学のために家を出て山梨で一人暮らしをはじめます。大学で国文学を学んでいた私は、ちょっと時間が空くと電車で都内に出て、古書店巡りを楽しんでいました。お茶の水の駅で降りてまちをブラブラ歩いていると、ちょっとあやしい感じの古本屋さんがありました。薄暗い店内を見て回り、ふと棚の上を見上げると、この本が目に入ってきました。さほど古い本ではないのにどうしてこんなところに?と思い手を伸ばしてみると、懐かしさがこみ上げ、気づいたら自分の部屋でこの本をよみふけっていました。
 そして、月日は流れ、私は図書館員になりました。この原稿の依頼を受けたとき、「どんな本を紹介しようかな」と書架をまわっていると、1冊の本に目がとまりました。それはかつて私が何度も読み返したこの本でした。
 この本は、私の人生の節目節目で様々な物語を語ってくれたような気がします。そして、これから先もこの本に出合うたび、青春を思い返したり、またいつかこの本に出合うことを想像してしまうことでしょう。
 これから私は、学生の時分に買ったこの本を、旅させてみようと思います。今度出会ったときにわかるように、目印をつけて。
                                         (山﨑 剛史)                                   

3 『夜市』 
  (恒川 光太郎/著 角川書店 2005年)

 「今宵は夜市が開かれる。」この文章からお話は始まります。
 異界のものたちが様々な品物を売る不思議な市場、それが「夜市」。ここではな んでも手に入るという…
 裕司といずみは「夜市」へ足を踏み入れていきます。しかし、裕司は何か知っているようで…
 人間は昔から闇を恐れ、別の世界の入り口があると考えられてきました。そんな日本のダークファンタジーの世界が描かれた作品です。
 この作品は、恐らく、私が自身で買った最初の本です。金魚の表紙がとても印象的で読んだ後の何とも言えない感覚を覚えています。それ以来、恒川光太郎さんの作品はすべて読んでいます。
 日々の喧騒から抜け出して、不思議な世界へ誘ってくれますよ。
                                         (土屋 美貴)

次回は 沼津市立図書館 細倉 民世 さん です。

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