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図書館員の棚から3冊(第81回)(2017/03/10)

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図書館員の棚から3冊(第81回)(2017/03/10)

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図書館員の本棚拝見!
このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画を御紹介します。
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■第81回目は 静岡市立南部図書館 小林 元子 さん です。■

 「子どもと一緒に楽しむ本」をご紹介します。児童サービスを担当して多くの児童書と子どもたちに携わってきました。児童書には人間の本質を描いたものが、数多くあります。困難に直面してもそれを乗り越え、最後はハッピーエンドが待っていること、それは、この世は生きるに値する、と青少年時代に一番大事なことを教えてくれています。読まない手はありません。どうぞ、親子で楽しんでください。

1 『たのしい川べ ―ヒキガエルの冒険―』 
  (ケネス・グレーアム/作 石井桃子/訳 岩波書店 1963年) 

 わが子に空想話をして、寝る前の時間を共に過ごすことはよくあることです。著者のグレーアムも、息子のアラステアに彼が好きな動物が出てくるお話を語り聞かせていました。父と息子の合作であるこのお話を基に書き上げたものが、『たのしい川べ』です。
 自然の中で生き生きと暮らすネズミ、モグラ、アナグマたちは個性豊かです。そして、見栄っ張りでわがままなヒキガエルも登場して、事件が繰り広げられます。仲間たちの友情や相手への思いやりに、暖かな気持ちに包まれて読み進めることができます。洋服を着た愉快な動物たちの日常は、まさに人間社会そのもので、悲喜こもごもの人間模様が描かれているようです。春に誘われ地上に出たモグラが、「きらめき、光り、かがやき、ざわめき、うずまき、ささやき、あわだっている川」との最初の出合いから、四季の移り変わりを美しい風景描写の中で動物たちと一緒に感じていると、いつしか川岸を歩く自身のシーンが浮かんできます。


2 『時の旅人』 (アリソン・アトリー/作 松野正子/訳 岩波書店 1998年)

 ♪グリーンスリーブスのメロディーが流れる中、時を超え、中世の世界に紛れ込んだ読み手の私たち親子は、主人公ペネロピーと一緒に抗うことのできない悲劇の歴史を、切なくも受け入れなくてはなりませんでした。
 少女ペネロピーは、ロンドンから郊外のサッカーズ農場へ病気療養にやってきます。屋敷のなか、時の通路に足を踏み入れ、20世紀から時空を超え16世紀に迷い込みます。そこは、エリザベス1世の時代。農場の祖先バビントン家の人々は、英国の正当な王位継承者は、スコットランドのメアリー女王だと考えていました。未来からきたペネロピーは、歴史上の大事件である、メアリー女王の処刑、そして、アンソニー・バビントンも絞首刑台に立つという辛い結末を知っていますが、歴史を変える術はありません。
 “時あり 時ありき 時あらず ― 日時計の銘”この物語の冒頭の詩は、過去と未来、そして今をつなぐ「時」の持つ意味と、時計が示す時間とそうではない時間の存在を教えてくれているのでしょうか。


3 『DIVE!! 全4巻』 (森 絵都/著 講談社 2000~2002年)

 次の巻が出版されるのをまだかまだかと、親子で心待ちにしていました。スポーツものは、主人公に自分を重ねやすく、読書の醍醐味であるハラハラドキドキ感を満喫できます。本の楽しさを実感できること請け合いです。
 高さ10メートルからの飛翔、時速60キロの急降下、わずか1.4秒の空中演技。一瞬にすべてをかける競技、高飛び込みのオリンピック出場を目指す少年たちの青春物語。先が知りたくてたまらなくなるストーリー展開。リアルなダイブのシーン。生き生きとしていて魅力的な登場人物が読み手を話の中に引きずり込みます。
 主人公の知季、ライバルの飛沫、要一は、高飛び込み競技が持つ、恐怖心、孤独感、不安と戦いながら、目標に向かいひたむきに練習に打ち込みます。死にもの狂いの練習でマスターした得意技が、映像として脳裏に焼き付いてはなれません。競技を通して、悩み多き思春期の少年たちの心理を巧みに描き、読み応え抜群です。悩み苦しみ、試練を乗り越え成長していく姿は、読後を爽やかな気持ちにしてくれるはずです。


        次回は 東海大学付属図書館清水図書館 大倉 正次 さん です。


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