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図書館員の棚から3冊(第63回)(2016/05/27)


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図書館員の棚から3冊(第63回)(2016/05/27)

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図書館員の本棚拝見!
このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画を御紹介します。
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■第63回目は 沼津市立図書館 松澤 ユカリ さん です。■


1 『飛ぶ教室』 エーリヒ・ケストナー∥著 高橋健二∥訳 岩波書店 1962.5

 ナチスが台頭し始めた頃のドイツで出版されたこの本は、そういう不幸な時代の風潮を全く感じさせない物語です。主人公の少年たちはそれぞれ個性があり、今ドキの言葉で言うのなら「キャラが立って」います。少年たちのまわりの大人たちも、なかなか素敵です。その中で印象的なのは、アメリカからドイツに向かう船に一人で乗せられ、両親に捨てられたヨーニーと、折からの不況で父親が失業している貧しい給費生のマルチンです。彼らが共に持ち合わせているのは勇気と賢さと、そして精神的な強さです。今の世の中、悲惨な事件や天災が多く、不幸な人も多いように思いますが、「不幸な目にあっても気を落とさず」に「元気をだし、不死身になろう」というケストナーのメッセージがこの物語から伝わり、私はあたたかな気持ちになります。


2 『しゃぼん玉』 乃南アサ∥著 朝日新聞社 2004.11

 バイクに乗った主人公がひったくりをするシーンから始まり、乃南さんのサスペンスドラマがはじまるかと思いきや、そうではないのです。私はこの本を何度読んだことでしょう。何人にお薦めしたことでしょう。眠れない夜には、この本を読めば、安らかな気持ちになりました。人って、ボタンを一つ掛け違えるとこんなふうになってしまうのかと思います。人って、人に信頼されないと、人を信頼することも難しくなるのだなと思います。そして人って、他の人を思い遣る気持ちが大切なんだなと思います。もう10年以上前に出版されているのですが、某ネット通販の乃南アサの文庫売れ筋ランキングではダントツの1位です。これは現代版「罪と罰」なのかもしれません。


3 『夏草冬濤(上・下巻)』 井上靖∥著 新潮社 2013.1

 『しろばんば』の主人公洪作が浜松から沼津の中学へ転校し、その3年生から4年生の時期が描かれています。井上靖の自伝的三部作(『しろばんば』『夏草冬濤』『北の海』)の2作目となります。百年くらい前の時代のお話なのですが、洪作の心情は、まるでそういった時間の隔たりを感じさせません。伯母さんにすぐにばれるような嘘をついたり、鞄をなくし教科書もなしに授業に出席せざるをえないやるせなさ。勉強をしなければと思いつつも、まったくしないで日々をすごしてしまう気持ち。どれも自分のことのように感じます。また1学年先輩の友人、藤尾たちとのやりとりが自由でおおらかでのびのびしていて、いささか手前味噌ですが、気候が温暖で食べものもおいしい沼津の土地柄そのもののように思えます。



      次回は 静岡県立中央図書館 八木 麻美 さん です。 


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