パンくずリスト:このページは ホーム »の下の メールマガジン »の下の 2016年 »の下の 図書館員の棚から3冊 »の下の 図書館員の棚から3冊(第61回)(2016/04/22) です

図書館員の棚から3冊(第61回)(2016/04/22)


現在位置:HOMEの中のメールマガジンから図書館員の棚から3冊(第61回)(2016/04/22)

図書館員の棚から3冊(第61回)(2016/04/22)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
図書館員の本棚拝見!
このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画を御紹介します。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

■第61回目は 静岡県総合教育センター図書館 水井 千保子 さん です。■

 1 ご冗談でしょう、ファインマンさん』上・下 
   (リチャード P. ファインマン著 岩波文庫 2001年)


 1965年に量子電磁力学の発展に大きく寄与したためノーベル物理学賞を共同受賞した物理学者のエッセイです。物理学者の著作だから専門用語だらけで真面目なものと思いきや、子供のころから持ち続けているあくなき探究心と茶目っ気で面白おかしい日常をおくり、それは大学時代、戦時下の研究所時代までずっと続いています。ところどころ物理学の用語は出てきますが、それはファインマンさんが面白いことをやってのける材料として登場します。「なぜだろう?」という疑問をそのままにせず、満足するまで楽しみながら答えを出そうとする。起こす事件も面白いけど、文章からすごく人生を楽しんでいるのがわかります。たぶんどんな難問にぶつかっても、ファインマンさんなら楽しんで解決しようとするだろうなとちょっと羨ましいです。この人の本はみんなこうなのかと『ファインマン物理学』という本をよんでみましたがこちらは本当の物理学の本でした。

 

2 『三月のライオン』 1~11巻
  (羽海野チカ 白泉社 ジェッツコミックス 2008年~)


 手塚治虫文化賞やマンガ大賞、講談社漫画賞などを受賞している作品です。東京の下町に1人で暮らす17歳の主人公は幼い頃に事故で家族を失い、心に深い傷を負ったまま将棋のプロ棋士となり、孤独な生活を送っています。しかし偶然出会った三姉妹との交流により少しずつ暖かい気持ちをよみがえらせます。それと連動するように理解ある先生や先輩、対戦する様々な棋士との出会いによって、新しい人間関係を少しづつ築いていきます。強い個性が勢揃いの登場人物と、合間合間にはさまれる笑い。穏やかに見える日常の中におこる出来事に、悩み、怒り、泣き、助け合う。主人公だけでなく、三姉妹や、対戦する棋士の生き方や、考え方、悩みも細かに描写されて、そのがんばる姿に泣けてしまいます。また、勝負のシーンも引き込まれます。将棋は全く分からないんですが、相手の出方を見て、ぎりぎりまで先の先を読んで駒を進める。一手の重みがとてもよくわかる作品です。こちらは現在アニメ化や実写化の計画が進んでいるようなので、興味を持たれた方ぜひご一読を!!

 

3 『夕凪の街 桜の国』 全1巻
  (こうの史代 双葉社 アクションコミックス 2004年)
 


 映画にもなった漫画です。「原爆」は知識としてはありましたが、その出来事に直接あった人の心情などは考えたことはありませんでした。怪我が痛そう、後遺症が辛そうといった肉体的なこと以外に、言葉にできない心の中の痛みが作品の中で語られています。生き残ってしまったうしろめたさ、自分は幸せになってもいいのかという思い。傷つき残ったものをかき集めて、徐々に日常を取り戻そうとしている中で、主人公は後遺症で弱っていきます。あんなにたくさん人が死んで戦争は終わったはずなのに、ようやく幸せになれるかもしれないのに「原爆」はどこまでもまとわりついて彼女を殺します。

「十年経ったけど原爆を落とした人はわたしを見て「やった!またひとり殺せた」とちゃんと思うてくれとる?」という言葉は、精一杯日常を生きていただけの彼女の最後の言葉としてはやりきれません。何度読んでも泣いてしまう本です。

 

   次回は 静岡県男女共同参画センター図書室 松永 真希 さん です。 


図書館員の棚から3冊へ戻る