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図書館員の棚から3冊(第54回)(2016/01/08)


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図書館員の棚から3冊(第54回)(2016/01/08)

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図書館員の本棚拝見!
このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画を御紹介します。
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■第54 回目は 静岡県立中央図書館 河原崎 全 さん です。■

 こんにちは。県立中央図書館の河原崎です。毎日、菊川~草薙を電車通勤しています。私の読書タイムはその往復100分、持ち運びに便利な文庫本がほとんどです。

1.『赤ヘル1975』(アカヘルイチキュウナナゴ) 重松清/2013年/講談社

 とっても読書好きの図書館の旧同僚から紹介されました。
 カープ女子がまだいなかった1975年(昭和50)、広島カープは帽子を紺から赤に変え(赤ヘル誕生!)、秋には初優勝します。また、その年は原爆投下から30年という年でもありました。その広島に東京から引っ越してきた少年マナブ、彼と友人たちとの出会いと別れ、束の間の友情を中心に話は展開します。弱小球団広島カープをこよなく愛し、優勝に向かって突き進むカープの戦いぶりに熱狂する市民の様子は読んでいて楽しくなります。一方で、原爆の後遺症等まだ戦争の影が色濃く残っており、さりげなく盛り込まれているそのエピソードは読む者の心に何かを訴えます。マナブ以外の登場人物が話す広島弁は地域の魅力満点。ほのぼのとした温かみ、また胸の痛みを感じつつ、一気に読めてしまいます。私は当時高3、その頃の広島カープの選手や試合を思い出し、リアルな懐かしさが作品と自分とをさらに近づけてくれました。

 重松清の作品では、彼と同じ世代を題材にした『カシオペアの丘で』『その日のまえに』もけっこう泣いてしまいますが、まったく異なる系統のこの作品は素直に胸が熱くなります。

 
2.『横道世之介』 吉田修一/2012年/文春文庫(単行本:2009年/毎日新聞社)

 映画で「悪人」(妻夫木聡、深津絵里…お気に入りです)を観て、原作者の吉田修一に興味を持ちました。原作(2009年/朝日文庫)を読み、さらに彼の作品を読みたくなって、手に取ったのがこの作品です。『悪人』とも一昨年の『怒り』とも趣が異なります。

 大学進学のために長崎から上京した横道世之介は18歳。平凡でゆるく明るいキャラ(でも芯は強い?)。友人の結婚に出産、お嬢様との恋愛、カメラとの出会い……、笑いの中で大学生活のエピソードがつづられ、特に大きな盛り上がりもなく話が進みます。でも安心してください、それだけでは終わりませんから。読み通してみると構成の妙に驚きます。様々なことや人がつながっています。胸が熱くなります。やっぱり世之介はいい奴でした。「誰の人生にも温かな光を灯す、青春小説の金字塔。」と本の帯にあります。青春を懐かしむ人でも十分楽しめます。第23柴田錬三郎賞受賞。第7回本屋大賞第3位。


3.『出星前夜』(シュッセイゼンヤ) 飯嶋和一/2013年/小学館文庫(単行本:2008年/小学館)

 この本は、紀伊國屋書店社長の高井昌史さんが『本の力』(2014年/PHP研究所)の中で薦めています。作者は寡作(数年に一作)ですが、「飯嶋和一にハズレなし!」と言われているとか。なるほど700ページを超す長編ですが読み始めてすぐ引き込まれてしまいました。

 話は、寛永十四年(1637)、長崎島原を襲った傷寒禍(伝染病)が一帯の小児らの命を次々に奪い始めるところから始まります。一切の抵抗をしてこなかった旧キリシタンの土地でこれから起こることは……。島原の乱はキリスト教徒による反乱というくらいの知識しか持っていない私には新鮮かつ感動の内容でした。本来の背景を丹念に描き、領民のことを全く顧みない圧政に立ち向かう農民たちを主役にし、よく知られた天草四郎を脇役に置いています。読みごたえがあります。骨太の歴史大作をお探しの方にお薦めです。第35回大佛次郎賞受賞。

 読後、テーマは異なりますが、同じ時代・場所を扱った『沈黙』(遠藤周作)を久しぶりに読んでみました。併せてお薦めします。


4.『にっぽん怪盗伝』 池波正太郎/2012年(改版初版)/角川文庫

 池波正太郎原作の時代劇が時々BSで放送されます。「鬼平犯科帳」の長谷川平蔵が主役ではなく、盗賊たちの人生に焦点を当てた鬼平外伝シリーズ「夜兎の角右衛門」(中村梅雀)「正月四日の客」(柄本明)などです。池波の原作に、脚本を担当している金子成人がさらなる味付けをして、登場人物の人生に深みを加え、言葉(セリフ)に重みを持たせています。これらの原作が入っているのがこの本で、『鬼平犯科帳』シリーズ(文春文庫)の素にもなっている短編集です。江戸の街に生きる庶民、男女、盗賊などの様々な人生が語られます。池波はその作品の中で「矜持」「情」を描こうとしていると言われます。今の時代だからこそ大切にしたいですね。歳のせいでしょうか、これらの作品の持つしみじみとした味わいに浸りたくなる時があります。

 時代は全く違いますが、昭和の新宿裏通りを舞台とした『雨やどり』(半村良/1990年/集英社文庫)も、様々な男女が織りなす人間関係を描き出しています。この作品にも池波作品と同様のにおいを感じます。

 
5.『一路』 浅田次郎/2015年/中公文庫(単行本:2013年/中央公論新社)

 皆さん御存知の本です。参勤交代の御供頭を務める家に生まれた小野寺一路。父親の不慮の死によって、急遽、家督を継ぎ、参勤交代の御供頭として、12月、西美濃から江戸まで中山道を進んでいきます。何が起こるのか?どんな難関があるのか?ワクワクしながら先を急いでしまいます。登場人物も魅力的ですし(特にお殿様)、オチもあります。明るく、ドキドキ、ちょっとほろっとで、読後感爽快です。私は中山道の本を借りて改めて場所を確認しながら読み直しました。第3回本屋が選ぶ時代小説大賞受賞。

 浅田次郎の作品では、中国清朝末期、架空の人物の中に実在の西太后、李鴻章、張作霖、袁世凱らを加えて構成した歴史小説『蒼穹の昴』『珍妃の井戸』『中原の虹』、新選組隊士の吉村貫一郎を題材とした『壬生義士伝』を読みました。これらもお薦めしますが、この作品はそれらとは雰囲気も異なり、違った魅力があります。

 
               次回は 静岡県立中央図書館 田辺 章 さん です。 


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