パンくずリスト:このページは ホーム »の下の メールマガジン »の下の 2015年 »の下の 図書館員の棚から3冊 »の下の 図書館員の棚から3冊(第47回)(2015/09/25) です

図書館員の棚から3冊(第47回)(2015/09/25)


現在位置:HOMEの中のメールマガジンから図書館員の棚から3冊(第47回)(2015/09/25)

図書館員の棚から3冊(第47回)(2015/09/25)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
図書館員の本棚拝見!
このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画を御紹介します。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

■第47回目は 焼津市立焼津図書館 山梨 のぞみ さん です。■


 「あなたにとって読書とは?」という質問を受けたことがある。
 私の答えは「人生は楽しいと思わせてくれるもの」だった。だいぶ飛躍した発想なのだが、図鑑や実用書に広がる未知の世界は、好奇心を満たし、“世の中にはまだまだ知らない事、見たこともない世界が広がっている”と教えてくれる。また、小説の登場人物に癒されたり、勇気をもらったり…。いろいろな生き様に励まされながら日々を送っている。ご紹介する3冊は「私を励ましてくれる」三冊です。


 
1.『三月のライオン 1~10』(羽海野チカ/著 白泉社 2008年~)

 幼くして交通事故で家族を失い、心に深い傷を持つ桐山零(きりやまれい)少年が主人公。生きるために将棋の内弟子となり、15歳でプロ棋士となるが、孤独な人生を送っている。そんな日々を変えてくれたのは、同じく両親のいない川本家の三姉妹との出会い。「あかり、ひなた、モモ」と交流を深める日々を過ごすうちに、心を開き孤独な心は癒されていく。そして、ひなたの中学校でのいじめの問題に関わることになる。ひなたは、いじめられていた幼なじみをかばったことで、自身がいじめの標的になってしまう。どんなに過酷ないじめを受けても、「それでも自分がしたことは間違っていない。」と言うひなたを見て、自らが抱えていた心の傷から救われた零は、何があっても彼女を守ることを誓う。孤立することがわかっていて、それでも参加した修学旅行先の京都で、胃の痛みから体調を崩したひなたを、同じく将棋の試合で関西に来ていた零が心配し、駆けつける。零のこの行動から、ひなたの弱っていた心は力を取り戻し、事態は好転していく。
 孤独な世界に生きていた零が他者と関わり、必要な人とされる喜びを感じる場面や、彼を支えてくれる愛すべき将棋仲間との将棋世界のエピソードも興味深く読むことが出来ます。
 零やひなたたちを応援しているつもりが、実は読んでいる自分も励まされる作品。


 
2.『銀の匙 1~13』(荒川弘/著 小学館 2011年~)

 舞台は北海道。高校受験に失敗した八軒勇吾が、学力競争と高圧的な父親から逃れるため、“寮がある”という理由だけで入学した、大蝦夷農業高校(通称:エゾノー)での日々を描いている。進学校の中学生活とは180度違う、何もかもが初体験ばかりの汗と涙と泥まみれの高校生活。周囲は、個性的な農家の跡取りが多く、それぞれに将来の夢やビジョンを持っている彼らに刺激を受ける日々。そんな彼らと共に過ごすうち、不慣れな環境に戸惑いながらもエゾノーに適応していく。牛や豚、ニワトリや馬の世話をするうち、普段自分が口にしているそうした家畜たちが置かれた厳しい現実をつきつけられる。そして、実家の借金のために高校と甲子園をあきらめ退学する友人や、厳しい状況の中、酪農を続ける農家の実情を目にする中で自分に出来ることは何かを考え始める。進路を考える時期になり、勇吾は思い切って起業することを決意する。勉強だけの中学生活を過ごし、受験に失敗して道に迷った勇吾が、自分ができること、したいことは何か?を考え、出した結論は「人の夢を否定しない人になりたい。」そんな思いからビジネスプロジェクトを立ち上げ、周囲の協力を受けながら、自分の道を歩み始める…。
 勇吾や友人たちが、真摯に農業に取り組む姿に、自分も頑張ろうと思う一冊。


 

3.『太郎物語 大学編』(曾野綾子/著 新潮社(新潮文庫)1987年

 何になっても大丈夫な名前という理由でつけられた名前は太郎。そして、苗字は山本。「山本太郎」という、ひと昔前なら申込書の記入見本になりそうな名前を持つ少年が主人公。この物語は高校編からつながっているので、高校編もおすすめなのだが、誠実に生きるとはどういうことなのか、学ぶとは何か等々、人生で大切な事を考えさせてくれる大学編はもっとおすすめ。悩み多き高校生活を経て、東京の有名大学に補欠合格するも、本当に学びたい「文化人類学」を学ぶために、東京から都落ち(自称)し、名古屋にある大学に進んだ太郎。アパートを借り一人暮らしをしながら、好きな学問を掘り下げていく。時に、一人旅を楽しみ、またある時はブリア・サラバンの『美味礼賛』を片手に、東京から会いに来た父親にタンシチューを作ってご馳走する。そしてまたある時は、アパートの隣人である、世間で俗に言う愛人をしている女性と友人になる。この作品を読んでいると、いろいろなことを知りたい、独自な観点を持ち、独自な意見を持てるようになりたい、美味しい料理を作りたい等々、生きる事はこんなに楽しめると思えてくる。1970年代が舞台なので、少々時代遅れな感は否定できないが、生きていく上での価値観や感性に影響を与えてくれる物語。

 
 次回は 南伊豆町立図書館協議委員で石垣りん文学記念室の設立に携わられた 鈴木 さつき さん です。 

図書館員の棚から3冊へ戻る