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図書館員の棚から3冊(第9回)


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図書館員の棚から3冊(第9回)

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 図書館員の本棚拝見!
 このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画をご紹介します。
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■第9回目は 裾野市立鈴木図書館 多田 純子 さん です。

 
◆「台所のマリアさま」
 ルーマー・ゴッデン作 猪熊葉子訳 (評論社 1976年)

 グレゴリーは内気でもの静かな少年で、外に出るとほとんど誰ともしゃべりません。彼の部屋には妹のジャネットしか入らせてもらえません。 お母さん曰く「あの子はすっかり自分の世界の中にこもっている」のです。
 家には、共働きの両親に代わり、二人のお世話をするお手伝いのマルタがいます。マルタはウクライナ人で、生まれ故郷の村を兵隊に追われ異国で暮らす難民でした。
 グレゴリーもジャネットも彼女のことが好きで、マルタが一日の大半を過ごす台所は、二人にとって暖かく居心地が良い場所です。でも、マルタは「この台所はからっぽのような感じがする…」と言います。
 ウクライナ人の家では、部屋の隅に「いい場所」を作ります。戸棚の上や棚の上の小さな場所に美しい布やビーズで飾りつけたマリアと幼子イエスの絵を置き、花を飾りランプにあかりを灯すのです…その「いい場所」がないことがマルタの悲しみでした。
 誰よりもマルタの孤独を感じ取っていたグレゴリーは、彼女のために絵を手に入れてあげたいと思います。雨に降られて飛び込んだ教会で、衣をまとい銀やビーズがちりばめられた「聖母子の絵」を見つけ、これがマルタの話していた絵だと分かります。とても自分の力では購入できないグレゴリーは作ることを決意します。
 グレゴリーが、工夫をこらしながら一心にマリアと幼子イエスの絵を完成させていく姿に胸を打たれます。マルタのために絵を作ることで、内向きだった彼の世界が外に向かって開いていく様子は読んでいて暖かい気持ちになります。
 C・バーカーのさし絵も物語の雰囲気をよく伝えていてとても素敵です。


◆「つらつらわらじ 備前熊田家参勤絵巻」(全5巻) 
  オノ・ナツメ著 (講談社 2010年~2013年)

 岡山藩主が参勤交代のため江戸に向かう様子を描いた漫画です。
 時は寛政、「備前蜂」の紋を掲げた岡山藩熊田家藩主・治隆は家臣と人足を引き連れ参勤交代の旅に出ます。
 行列のお供は、家老職に就いてまだ4ヶ月、若干17歳の熊田和泉、藩主治隆の側近・山和木三郎左衛門など。
 この旅には、幕府の緊縮財政に批判的な治隆を疎んじる、幕府老中・松平定信の差し向けた密偵九太郎も紛れ込んでいます。 
 かくして、江戸までの長い道のり。波乱含みの旅の始まりです。
 家督を継いでまもない和泉は、父親の期待や失態があってはならぬという重圧からガチガチの状態でお供をします。旅の行程を心配するあまり、ついつい「殿、なりませぬ!」と叫びがちで、治隆から、「どこぞの老中のようじゃな」とからかわれる始末。
 一方、密偵の九太郎は、老中から治隆の弱みを探れ…という命を受け中間の九作として紛れ込みますが、落馬しそうになった和泉を助けたことで治隆の目にとまり、暴れ馬「百楽」の世話係を命ぜられたり、何かと治隆に召し出されることになったり、密偵らしからぬ立場に立たされます。そして、治隆と接することでその人柄にふれ、己の役目に疑問を持ちはじめます。
 豪放磊落な治隆を旅の先々で心待ちに迎える人々、和泉から少しずつ力みが消え成長していく様子、正体がばれたら命がないと恐れつつも行列から離れない久太郎の思い、そして、江戸まで無事に参勤交代を終えるために裏側で家臣達が苦労し右往左往する様など、歴史を踏まえた参勤ドラマはドラマチックでスリリングです。
 オノ・ナツメさんの独特の絵も病みつきになります。

 
◆「樽」
 F・W・クロフツ著 加賀山卓朗訳 
 (早川書房 2005年)ハヤカワ・ミステリ文庫
 

 1920年に発表された推理小説です。
 著者のクロフツは鉄道技師で、40歳の時に入院。療養後に書いた作品「樽」が一躍有名になり、推理作家の仲間入りをしました。
 物語は、ロンドンの埠頭に荷揚げされようとしていたワイン樽のロープが切れて落下し、板の裂け目から金貨がこぼれ落ち、さらに女性と思しき手が見えて、荷揚げの現場がにわかに緊張するところから始まります。
 通報を受け、ロンドン警視庁のバーンリー警部が駆けつけますが、樽は自分がその引取り手だと強く主張する男とともに忽然と消えていました。バーンリーは樽の行方を追い、地道な捜査で取戻します。樽の発送元のパリで女性の身元が分かると、犯人と思われる人物も絞られていきます。しかしその人物には鉄壁のアリバイがありました。
 500ページに及ぶ作品の大部分は、ひたすらアリバイ崩しの地道な捜査が描かれています。探偵さながらの警部達が、事件をあらゆる角度から推理・検証し綿密に捜査方針を立て、関係者や目撃者に会いに行きます。間違った方向に向いていると分かったときは推理を組立て直し、何度でも同じ人物に聞き取りに行きます。
 策を弄した犯人の計画に振り回され、一つのはずの樽の存在が、二つ、三つあるのではないかと思わされたりします。
 本格古典ミステリの代表作と言われる「樽」は、特に劇的な場面展開もなく現実的で淡々とした内容ですが、地道な捜査が徐々に実を結び犯人を追いつめていくまで、物語全体に緊張感があり読み応えがあります。

   
       次回は  長泉町民図書館 齋藤 康子 さん です。 


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