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図書館員の棚から3冊(第4回)


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図書館員の棚から3冊(第4回)

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 図書館員の本棚拝見!
 このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画をご紹介します。
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■第4回目は 静岡県立中央図書館 鈴木 由美 さん です。

 
『灰色のノート』(田村隆一/著 集英社 1993年)

 数年前の秋、ある古書市で手に入れたものです。平台に田村隆一の詩集が並んでおり、昔から田村隆一が好きだった私の目を引きました。手に取ってみると、どれもとてもとても大切にされていた様子。一旦ジャケットを外し、渋谷のデパートの包装紙でくるんでから、またジャケットをかけてあります。帯は畳んで見返しに挟んであり、中には出版当時の新聞書評の切り抜きが挟んであるものもありました。値段はちょうど定価そのまま。かつて「元の値段より高くなっているのが古書(こしょ)、安くなっているのが古本(ふるほん)」と教わったところから考えると、これは古書なのか、古本なのか。何よりも、こんなに大切にしていた「田村隆一」をなぜ手放したのか。愛蔵家が亡くなり、そして、ご遺族には特に思い入れはなかったのか、残念ながら。あれこれと妄想を逞しくしつつ、さてしかし、どうしたものかと。全てもらいうけたかったのですが、とてもそれだけの余裕はありません(金銭的にも空間的にも)。並んだ中からこの1冊だけ購入しました。『灰色のノート』と言えば『チボー家の人々』第1部ですが、『チボー家の人々』は田村隆一の青春時代の愛読書であったようです。こちらの『灰色のノート』の中には、田村隆一の4歳、40歳、70歳の写真も載っていまして、ダンディで恋多き詩人は、70歳のお姿もうっとりするほどすてきです。
 お父さん、せめてこの1冊だけは私が大切に引き継ぎますから、どうぞご安心ください。(最後まで妄想ですみません。)


『俳句歳時記 合本 第3版』(角川書店/編 角川書店 1997年)

 はるか昔、家族で団らん中に「無人島へ持っていく1冊」を何にするか?という話題になりました。その当時は、『広辞苑』か、お気に入りのマンガかと迷っていましたが、現在ほぼ方向性は定まりました。それが「歳時記」です。「歳時記」とは、『現代俳句大事典』(三省堂 2005年)によれば「俳諧・俳句の季題や季語を季節別に整理分類し、項目ごとに本意や解説や例句を添えた書物」。私の持っている歳時記は現在のところ、このほかも、分冊版の角川文庫などコンパクトなものばかりですが、いざという時には、もっと分厚いもの、例句ができるだけ多く載っているものを選んで持参したいと思っています。例句を楽しみ、実作を楽しみして、無人島生活を風流に過ごすつもりです。問題は、無人島に四季はあるか?ということですが。
 ところで、当時家族でああでもない、こうでもないと話していたら、それまで黙って考えていた(らしい)母親が突然「決めた!私はやっぱりラジオにするわ!」と言ったもので、ほか一同爆笑となり、そこでこの話題は終了したのでした。ラジオは本ではありません。


『プラテーロとわたし』(J.R.ヒメーネス/作 岩波書店 2001年)

 ある製本講座を受講した時のことです。その講座は、文庫本をばらしてハードカバー(布装・角背)に仕立て直すという内容でした。各自好みの文庫本を持参とのことで、選んだのがこの岩波文庫版の『プラテーロとわたし』。スペインのアンダルシア地方を舞台とし、詩人ヒメーネスがロバのプラテーロに語りかける言葉は、尋常でないくらいの愛にあふれています。
 講座当日は、与えられた材料の中から自分の好きなものを選ぶことができました。私は、オリーブをイメージして表紙の布は深い緑色を、乾いた大地をイメージして見返しは黄土色を、澄んだ空と芳醇なワインをイメージしてスピン(しおり紐)は水色と深い赤の2本を、それに合わせて花布(はなぎれ)は赤の縞を、それぞれ選びました。講師から手順を教わりながらの作業はかなり手間のかかるもので、結局、予定時間を大幅にオーバーして、ようやく完成となりました。世界で1冊の『プラテーロとわたし』です。ところが、どこか変なのです。何かが違う、いや、何かに似ている。この大いなる違和感と既視感とはどこから来るのだろうと、首をひねること暫し、ようやく分かりました。出来上がったのは、なぜか「東洋文庫」(平凡社)だったのです。(画像でお見せできないのが本当に残念です。どうぞ目を閉じて想像してみてください。)当館の東洋文庫の棚にこっそり並べてもきっと見分けはつかないと、同僚には太鼓判を押されました。もちろん自宅本棚に並べてあります。

      次回は 菊川市立小笠図書館 鈴木 優子 さん です。

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