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図書館員の棚から3冊(第3回)


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図書館員の棚から3冊(第3回)

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 図書館員の本棚拝見!
 このコーナーでは、あなたの町の図書館員が本や雑誌、漫画をご紹介します。
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■第3回目は 磐田市立豊田図書館の皆さん さんです。

 『モモ』 (ミヒャエル・エンデ/作 大島かおり/訳  岩波書店 1976年)

 身寄りの無い子どもモモは、廃墟のような円形劇場に一人で住んでいます。この不可思議な設定に、冒頭から物語の世界に引き込まれてしまいます。円形劇場に集まる人々との交流の中、モモは常に聞き役です。皆の話に静かに耳を傾けるモモ。その純真な姿に人々は安らぎ、モモへの信頼と友情が芽生えていきます。読者の傍らにも温かな陽ざしが降りそそぐように感じます。
 しかし突如現れる灰色の男たち、時間泥棒の襲撃に緊張感が高まります。時は金なり、時をお金に換算し時間を節約する風潮は、この作品が書かれた時代に既に警告されていました。しかし今現在の方がより鮮烈なリアリティーを感じます。スピードや効率が重要視される今、常に時間との闘いを意識しているからでしょう。
 人々に時間を取り戻すため、時間泥棒と闘うモモ。困難に立ち向かう彼女は勇敢で誠実そして仲間への愛情に満ちています。その姿に、人を思う心がいかに人を強くするか、勇気を生み出すかを教えられます。モモのけなげで一途な思いが、作品に更なる迫力を加え読者に生きる力を与えてくれます。
 闘いを終えたモモと仲間たちには平穏な世界が戻ってきます。人生の喜び、幸せとは何かを、今再考する時代ではないでしょうか。お金で買えない「時」の価値を今一度見つめなおして欲しい。子どもたちはもちろん、是非大人にも読んで頂きたい作品です。そして子どもの頃読まれた方も、大人になって再読されると、また違った視点で新たな感動が生まれることでしょう。
                                        (三上 悦子)


 『百年の手紙―日本人が遺したことば』
 (梯久美子/著 岩波書店(岩波新書) 2013年)

  いただいた肉筆の手紙の持つあたたかさ。
 これはメール全盛の現代では、もはや贅沢に値するものでしょう。わくわくして封筒を開け、ひとつひとつ言葉を選んで、ゆっくりと丁寧に便せんに書かれた文章を何回も何回も大切に読みかえすという経験を、私はもう何年もしたことがありません。
 この本には、近現代の日本のさまざま場面で、著名人から市井の人まで、さまざまな人が書いた手紙が100通ほど収録されており、それらから、日本がこの100年間に体験してきた時代を知ることができます。教科書で習った事件、新聞で知った事故を、個人の心情を露わにする「手紙」を通して見ることにより、それらが単なる事柄としてではなく、立体的に、悲しみも喜びも伴った出来事として浮かびあがります。
 それとともに、大きな時間の流れのなかで、ひとりひとりの人間が、どんなに一生懸命に生きているのか、それぞれの人生が、どんなに愛情と誠実さに満ちているのかを感じることができます。自分の気持ちに素直に、自らを省みながら書かれている手紙の文章は、本当に透明で、真っ直ぐなのです。
 目で感じて、指先で感じて、相手に思いを馳せながら送る手紙、味わう手紙・・・読み終わった後に思ったことは、自分が大切に思う人と、また手紙のやりとりをしてみたいなあ、ということ。今の自分だったら、誰に、どんな手紙を書くかしら。
                                        (二橋 裕美)


 『武士道シックスティーン』 (誉田 哲也/著 文芸春秋 2007年)

  三歳から剣道を始め、武蔵を心の師とする香織は、全国中学校剣道大会2位の実績、ところが中学生最後の大会になる市民大会で、無名選手の早苗に負けてしまう。敗れた悔しさを片時も忘れたことのない香織は、早苗が通うエスカレータ校の剣道強豪校に進学する。早苗との再戦を願う香織は、早速早苗を探そうとするが…。
 「ストロベリーナイト」などの警察小説で著名な作者が初めて書いた『人が死なない作品』高校女子剣道部を舞台に、勝利にこだわる剛の香織と勝利にこだわらない柔の早苗。お互いに「武蔵オタク」「チャンバラダンス」と相反する二人が、剣道を通じて剣友から親友へと深くつながっていく。
 武士道とは何か?剣道とスポーツの違いとは?続編である「武士道セブンティーン」「武士道エイティーン」を通して問いかける作品です。
 剣道をよく御存じの方、武道にあまり興味のない方も、一本気な少女達が活躍するお話にちょっと熱くなってみませんか? 
 余談ですが単行本をお持ちの方、または図書館の方、本書のしおりをご確認ください。紅白の襷(たすき)になっています。剣道にこだわったこの作品らしくて素敵だと思いませんか?
                                        (平野 義久)

      次回は 静岡県立中央図書館 鈴木 由美 さん です。

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