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HOME > 館長室から> ―館長のひとりごと― 平成30年_10


平成30年10月12日


                ヘロドトスのエジプト見聞 (3)

 (2)でも触れましたが、藤縄 謙三氏によれば、ヘロドトスのエジプトに関する第一の重要問題は、ナイル河の定期的氾濫の原因究明でした。「・・・エジプトの地域は、いわば(ナイル)河のたまものとも言うべきもので、エジプト人にとっては新しく獲得した土地なのである。」実際ナイル川は毎年7~10月に増水・氾濫して、上流から肥沃な土壌を運び、他地域に比べ豊かな農業が営まれていました。
 「メンピスより下手の地域(※ナイル河口付近のデルタ地帯)・・・この地域の住民は、あらゆる他の民族やこの地域以外に住むエジプト人に比して、確かに最も労少なくして農作物の収穫を挙げているのである。鋤で畦を起こしたり、鍬を用いたり、そのほか一般の農民が収穫をあげるために払うような労力は一切払うことなく、河がひとりでに入ってきて彼らの耕地を灌漑してまた引いてゆくと、各自種子をまいて畑に豚を入れ、豚に種子を踏みつけさせると、後は収穫を待つばかり。」と彼は伝えます。 

 「私としては、ナイルが夏至を起点として百日間にわたって水嵩を増して氾濫し、この日数に達すると水位が下がって引いてゆき、再び夏至の訪れるまで冬の全期間にわたって減水したままでいる理由をぜひ彼らから聞きたいと思ったのである。・・・これについてはどのエジプト人からも情報を得ることができなかった。」と残念そうです。
 訪問したエジプトの地で、ナイル氾濫の理由を聞けなかった彼は、続いて、ギリシア人たちの中で語られる三つの説について、次々に論破したうえで、自説を説きます。
 「・・・しかし幾人かのギリシア人は学のあるところを示そうという魂胆から、ナイルの河水について三様の説を成した。しかしその中の二説は、単に指摘しておきたいと思うだけで、とくに論ずるに値しないものと私は考える。・・・
 最後に第三の説は中で一番もっともらしく見えるが、実は最も見当違いの説明なのである。その解釈は全く無意味なもので、それによればナイルは雪解けの水が流れ出したものであるという。しかしナイルは・・・エチオピアの中央を貫流しエジプトに注いでいる河である。炎暑の最も厳しい地域から、概してこれよりも涼しい地域に流れている河の水が、どうして雪解けの水であり得よう。・・・」と、最も的を射ていると思われる説を一蹴したうえで、
 「さて従来の諸説を攻撃したからには、この解明困難な問題についてこんどは評者自身の見解を述べねばなるまいが、ナイルが夏期に水位を増す原因と私に考えられるところはこうである。
 冬の期間中、太陽は冬の悪天候のために正規の軌道からはずれて(※北風に押されて、軌道が南方へ移動)、上部リビアの方へ移動してくる。簡単にいえば私の説は以上で尽くされているのである。というのは日の神が最も接近し通過する地域が水の欠乏を来すことが一番激しく、またその地域の河水の流れが最も枯渇するのは当然のことだからである。」(※訳者松平氏の訳注によれば、地球が平面と考えられ、その上空を東西に弧を描いて太陽が渡る。中天を東西に通るのが通常の軌道であるが、冬はそれが南方にずれるというのである。)
 何とも自信満々であり、さらに詳細に自説を開陳しています。今から見れば珍説として片付けられてしまうわけですが、彼自身、自分の書は、見たり聞いたりしたままを記録するだけであると言っておきながら、他説を批判し、自己主張したりと、基本姿勢から脱線することもしばしばあり、そこがまた面白いところでもあります。

 それにしても、ただ他人(ひと)から聴くだけではなく、自分の目で確かめるべく、彼はナイル川の源流を探ろうと、へリオポリス(現在のカイロ近郊)からエレファンティネ(現在のアスワン近郊)まではナイル川を、いまの単位で言えば千キロメートル以上遡上したと述べています。それより上流は土地が険峻となり、船の両側に綱をつけて曳き上げねばならず、綱が切れれば急流に流されてしまうとのことで、その先は伝聞に頼りながら詳述しています。当時、エレファンティネまでたどりつくだけでも相当な危険と隣り合わせだったと思われますが、そういう私事に属する苦労話は一切書き残していません。脱線はしても、この彼がこの書の冒頭に掲げた「研究調査したところを書き述べる」という本分はいささかもぶれません。


 


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