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HOME > 館長室から> ―館長のひとりごと― 平成30年_4


平成30年6月12日

                  ダーウィニズム

 前掲の「人間の由来」の最後近くで、ダーウィンは次のように述べています。
 「人類の福祉をどのように向上させるかは、最も複雑な問題である。自分の子どもたちが卑しい貧困状態に陥るのを避けられない人々は結婚するべきではない。なぜなら、貧困は大きな邪悪であるばかりか、向こう見ずな結婚に導くことで、それ自体を増加させる傾向があるからである。一方、ゴールトン氏が述べているように、慎み深い人々が結婚を控え、向こう見ずな人々が、結婚したなら、社会のよくないメンバーが、よりよいメンバーを凌駕することになるだろう。人間も他の動物と同様に、その速い増殖率からくる存続のための争いを通じて、現在の高い地位に上がったことは疑いない。そして、もしも人間がさらなる高みへと進むべきものであれば、厳しい競争にさらされ続けていかなければならない。そうでなければ人間はすぐ怠惰に陥り、より高度な才能に恵まれた個人が、そうでない個人よりも、存続の争いで勝ち残るということはなくなってしまうだろう。そうだとすると、われわれの自然な増加率が高いことは、多くのあからさまな悪へと導くに違いないにせよ、それを何らかの手段で押さえようとすべきではないに違いない。すべての人々は競争に対し開かれているべきで、最も優れた人々が最も多くの数の子を残すことは、法律や習慣によって阻まれるべきではない。存続のための争いは重要であったし、今でも重要だが、人間の最も高度な性質に関する限りは、さらに重要な力が存在する。自然淘汰は、道徳感情の発達の基礎をなしている社会的原因であると結論してかまわないであろうが、道徳的本質は、直接的にせよ、間接的にせよ、自然淘汰によってよりもずっと強く、習慣・理性の力・教育・宗教・その他の影響を通じて向上するのである。」
 訳者である長谷川氏は、「ここでのダーウィンの指摘には、のちの優生学を導くもととなる考えがたくさん含まれている。彼自身は優生学的な政策を提言していないし、人類の道徳水準の向上には、教育や習慣の方がずっと大きな役割を果たしているとは述べているものの、19Cの階級社会を背景にした当時の常識的思考からは、優生学的な考えが容易に導かれたのだろう」と述べています。(※1)
 優生学とそこから派生した生物学的、社会科学的諸思想は、世界史の中で、植民地支配、戦争、人種・民族差別問題など、負の歴史の理由付けに利用され、現在も、たとえば我が国で問題となっている旧優生保護法下での施策など、さまざまな問題を生む要因の一つとなり、現在も先端医療等を含めた多くの領域で、倫理的な問題とも関連し、議論が続いています。(※2)
 もちろん、ダーウィンその人の本意ではないでしょう。しかし、巨大な学問成果の果実の中には、受取る側の解釈次第で、後世の目から見て、そうならなければよかったのにと思わせる方向に発展していく可能性の種子も含んでいるともいえます。 
 誰も、自分が生きている時代の空気を呼吸し、一般的・日常生活上の思考においては、自分がなじんだその時代の常識から完全に自由であることはないのかもしれません。また、意識しているにせよ、無意識にせよ、とらわれている土壌があるから、そうでない新しい考えのきっかけや進歩の可能性が芽生える余地があるともいえるのでしょう。
 考え込んでしまう一文でした。



※1 前掲書 下p493
    なお、文章中でダーウィンが名をあげているゴールトン氏ですが、ダーウィンの従弟にあたります。大正5年、早稲田大学出版部から原口 鶴子 氏訳による「天才と遺傳」(原典は1869年出版)が出ています。2010年、クレス出版から鈴木 善次 編・解題による、「日本の優生学史料選集 第2巻 その思想と運動の軌跡 優生学の祖ゴルトンの著作」として再録されています。
    その第一章 緒論 の最初で、ゴルトンは次のように書いています。
「・・・良い種を撰び、或條件、或制限の下に一種の方法を施せば、疾走に巧みなりとか、其他色々の點に於て、他の者に眞似の出來ない業を爲し得る馬や犬を作ること出來ると同様に、人間も結婚の方法を誤らなかつたならば、數代の中には、前より一層優良なるものとなり得るであろうと信ぜられる。然るに、今日の結婚なるものを見るに、必ずしも優良人種を作り出すようには行はれていない。・・・私は本書に於いて、吾々人間は、其何れの時代の人たるを問はず、吾々の後に來るべき人の能力の上に、多大の變化を與ふる力の及ぶ範圍はどんなものであるか、・・・後世子孫を幸福に導くことが出來るかを研究せんとするものである。・・・私は自分の意見が、一般世人に容易に入れないことを知っている。併し、私は右の誌上に現はれた私の説が、遺傳研究の大家に容れられたのを見て、心竊かに悦んでいるのである。ダーウヰンは其の著「種の飼育 ドメステイケーション オブ スペシース」第二章に於いて、私の説に賛成する旨を述べて居る。・・・」

※2 さまざまな領域における過去から現代に至るダーウィニズムの軌跡については、阪上 孝編 「変異するダーウィニズム 進化論と社会」 京都大学学術出版会(2003)

※1 鈴木 善次編の書及び ※2の書籍は当館所蔵
 


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