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HOME > 館長室から> ―館長室だより― 平成30年7月


7月23日


 7月20日、当館を会場に、公立図書館等職員専門研修の一環として、東京都立中央図書館資料保全専門員である眞野 節雄氏を講師にお招きし、資料保存研修を開催しました。県内から、42名の図書館関係職員の皆さんが、終日の講義と実習に参加しました。
 私自身は、去る6月29日、全国公共図書館総会・研究集会が東京都立中央図書館で開かれた際、希望者対象の館内見学・説明にも参加させていただき、眞野氏のホームグラウンドである資料保全室(製本室)にもお邪魔し、実際の作業の一端を拝見させていただきました。図書館も今では多くの業務がコンピュータで管理され、職員の机上には、たいていパソコンを含めたIT機器のたぐいが設置されている中で、修復を待つ諸資料とともに、筆、水入れ、ものさし、カッター、補修に使用する幾種類もの楮紙などに囲まれ、経験を積み重ねた熟練の技と知識がものをいう職人の仕事部屋だなという第一印象を覚えています。「修復に使用する糊ひとつにしても、市販のものは防腐剤などが含まれているので、小麦粉から自分でつくるんですよ」、「書籍は紫外線に弱いです。蛍光灯も紫外線を放出します。だから、10年ほどかかりましたが、当館は紫外線対策がなされた蛍光灯になりました。ほんとうはLEDがよいのですが」、「紙媒体、とりわけ和紙は中性で化学的に安定しており、しかも丈夫です。数百年でも保ちます。必要なデータを保存していける」など、限られた時間でしたが、不勉強な私には、すべてが初めて耳にする新鮮な内容でした。職人という言葉を使いましたが、資料保全は決して担当ひとりで対応するというのではなく、施設などのハード面を含め図書館全体として組織的に取組む重要業務であることも教えられました。
 今回参加した職員の皆さんも、講義に熱心に耳を傾け、メモを取り、実習では表紙の外れた本の修理にチャレンジしました。使用した部屋の規模と参加人数の関係から、実際に眞野氏の周り近くに集まって模範作業を見ることが困難であったため、ビデオカメラで大型テレビに映し出しながらでしたが、実践では皆さん少し緊張した表情で、ものさしとカッターを握り、水を含ませた筆を使い、ときに隣の人と相談し、積極的に挙手して質問もしながら、熱心に取組んでいました。書籍の痛み方は様々なのですが、眞野氏が机間を巡り、それぞれの質問と実際の作業状況を正確に把握し、助言・指示する姿に、授業中、机間巡視しながら、生徒の様々な質問に的確に対応する経験豊かなベテラン教員の姿が重なりました。やはり、基本・土台となる部分は指導者がしっかり教え導くことが大切であるということを改めて認識しました。
 2年に1度の機会ですが、参加された皆さんには、眞野氏の誠実な人柄も手伝って、和やかな雰囲気の中で充実した研修を受けていただけたと思います。


7月9日


 あと十日ほどで、学校は夏休み。以前ほどではないが、いまでも読書感想文、場合によっては感想画を、児童・生徒の宿題にしている学校は多いのではないか。せっかく読むのであれば、一冊の書物との貴重な出会いがあるといい。
 図書館に勤務する者としてはいかがかとも思うが、本は、どちらかというと、借りて読むより、買って読む。ふらりと本屋さんに立ち寄って、欲しいな、と思うとつい買ってしまう癖はいまに至るも相変わらずである。もっとも、買っただけで安心してしまって、畳の上に積んでおくだけというものも結構ある。人間的に言えば、気の合う人には近くにいて欲しいけれど、それで満足してしまって、ほうっておいてもとくに文句も言われない、気楽な心理に似ているかもしれない。
 読書の楽しみというと、いろいろあるけれど、ストーリーの面白さや世の中や人生について知る、今までの自分、これからの自分を登場人物に重ねてみる、将来の役に立ち、ためになる、というところが、真っ先に挙げられるところだろうか。
 もちろん、それ以外にも、教養を高めるためとか、専門知識を増やすためとか、想像力を掻き立てるためとか、読む人、読む目的によって、楽しみ方もそれぞれであろう。
 最近は、ネットで購入することもある。新刊というより、少し古い本で、街の古書店(その独特の雰囲気も好もしいのだが)で見つからない本が、たいてい何冊かヒットする。エントリーしている全国からの出品物を一覧できて、確かに便利ではある。痛み具合や書き込みについてのコメントがあり、直接、古書店で自分の手にとって実際の状態を確認することはできないが、手元に届く書籍をみると、それほど外れてはいない。本の代金より、送料の方が高い場合もあるが。
 数年前、高橋 和巳全小説の(10) 河出書房新社(1975.6)をネットで購入した。ページの最後に、青インクの万年筆で、75.7.7 七夕の夜―雨強シと書いてあった。だいぶ年月が経っていて、色は薄れているが、にじみはない。誰が買ったのだろう。第10巻である。強い雨の日だが、待ちかねて書店に足を運んだのだろうか。当時の時代を背景に、大学生によく読まれた作家だから、四畳半の下宿で読んだのかな。しかし、学生なら文庫本が基本だろうから、買ったのは社会人かな。どういう経緯で手放した(あるいはこのひとの手から離れた)のだろう、などと考えてしまう。
 読み進むと、数カ所であるが、囲みがある。昭和46年、39歳で早世した著者の未完に終わった作品、「黄昏の橋」の中でのその一つ。「言葉がいまほど、その重みを失ったことがあるだろうか。その言葉の軽々しさは行為が伴わないからでは実はない。言葉がその背後にひかえる沈黙の重みとの関連を失い、胸はりさけんばかりの情念の表現、しゅうねく思いつめる者にのみ備わる美意識からも離脱し、現象の海を漂流しているにすぎないからだ」。鉛筆で囲んである。日常会話の中での言葉が単なる情報伝達のツールになりつつあることが指摘される現代から半世紀ほども前の作品である。あなたはなぜここに唯一、二重線の囲みを?でも囲むなら自分もここは囲むかな。そんなことを思う。最初に購入した万年筆の人だろうか。その人の手から離れた後に手にした人だろうか。想像はどこまでも膨らむ。消しゴムで簡単に消せる。でも、消さないで残してある。物語の内容そのもの、その背後にいる著者の思索、自分より先に読み、感じ考え心動かした、会ったこともなく、これからも会うことはないであろう未知の読者との対話。一冊の書物は、たったひとりでいても十分に他者との出会いと交流の機会を与えてくれる。もちろん実際に気心の知れた人たちと語り合えればさらに楽しいだろう。読書は奥深い。
 最後に、図書館の本に書き込みはあり得ないことは、付言しておきたい。

※高橋和巳全集 全20巻 河出書房新社(1977-1980)は当館所蔵


7月4日

 
 6月28日に国立国会図書館で、国立国会図書館館長と都道府県立及び政令指定都市立図書館長との懇談会に参加しました。
 懇談会前に、希望者対象で、館内の見学説明会が有り、こちらも参加させていただきました。閲覧室の雰囲気は、いわゆる静寂の中で真理を探求するといった、学究的・重厚な印象で、いかにも巨大な知の宝庫としての風格を備えた図書館だなと思いました。地下は書庫になっており、地下8階まであることにも驚きましたが、天井まで吹き抜けの場所があり、太陽の光が差し込んでくるのが地下8階から見上げることができました。説明してくれた職員の方の話では、書庫出納の仕事に専念する方は、こういう場所がないと、終日、蛍光灯の下での業務になってしまう。心身の健康面からも必要なのですということでした。
 懇談会とはいいながら、テーマは「障害者サービス」に絞られ、国立国会図書館、埼玉県立久喜図書館、大阪市立中央図書館から、それぞれの取組について具体的な報告がありました。システムや利用環境の整備、視覚障害等用データ(音声DAISY、マルチメディアDAISY、テキストDAISY、点字データ等)の提供や、対面朗読サービス、来館困難者への対応、外国語を母語とする方への読書支援(多文化共生)など、新しい技術の積極的な活用と、求められるサービスへの真摯な対応は、学ぶところ大でした。
 「障害者サービスとは、障害者を対象とした『特別な』サービスではない。誰もが高齢者になる。誰もが障害者になるかもしれない。すべての人に関係のあるサービス。だからこそ、誰もが使える図書館を目指す。それが埼玉県立図書館が目指すところなのです」という言葉が、とくに印象に残りました。半日の時間でしたが、実りある研修をさせていただきました。


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