「こんな図書館にしたい」「私の出会った図書館員」「心に残るこの1冊」 など、図書館員の“おもい”をリレー形式で紹介していきます。


■第111回目  鈴木 義雄 さん(浜松市立南陽図書館館長)

 私は、市役所に図書館司書として採用され、中央図書館に14年勤務いたし ました。当時は、図書館業務の電算化が全国の図書館界で端緒についた時期で、 私も電算業務に携わっていました。16年ぶりに図書館勤務に復帰した直後は、 図書館システムの格段の技術革新に驚愕し、自分が大学で専攻した図書館情報 学では自分の居場所が見つけられず、自分を見失っていました。
 さて、図書館とは異なった職場から図書館界を見ていて感じたことは、公共 図書館が果たして社会の役に立っているのかという疑問でした。私は、かつて 海外の図書館事情視察団に参加する機会があり、アメリカの公共図書館なども 視察した経験があります。その時、大変印象に残ったことは、アメリカの公共 図書館では、社会人の利用が大変多いことでした。いわゆるビジネス支援サー ビスに、大変力を入れていたのです。「どうして公共図書館がこのようなサー ビスにも力を入れているのか。」と尋ねたところ、怪訝な顔をされ、「社会に 役に立たないような図書館には、予算はつけてもらえない。」という答えでし た。
 浜松市立城北図書館では、数年前からビジネス支援サービスに力を入れてい ますが、今後、さらに浜松市立図書館全体で社会に役立つ図書館に発展してい くよう尽力したいと思っています。


■第112回目  田中 有紀 さん(浜松市立細江図書館)

 図書館に勤務するようになって6ヶ月が過ぎました。もともと本を読むこと が好きでしたし、毎日のように本と触れ合っていることもあり、以前よりも読 書量が増えたように思います。前は小説ばかり読んでいましたが、近頃ではノ ンフィクションや児童書、絵本も手に取るようになりました。まだまだ日の浅 い図書館員ではありますが、最近心に残った本をいくつか紹介したいと思いま す。
 私は生き物が好きで、目に留まった動物や植物をじーっと観察する癖があり ます。子どものようだと笑われそうですが、意外に子どもの時以上に新たな発 見をすることが多いのです。一般的によく知られている昆虫や花でも、「こん な動きをするのか!」とか「こんな形をしていたっけ?」と改めて気付かされ ることがたくさんあり、嬉しくなります。
 そんな私にとって、科学絵本や児童向けの生物の本は大変興味をそそられる ものばかりです。特に、写真でその生態を紹介している本が好きで、「どうやっ てこんな写真を撮っているんだろう…」とその撮影技術にも感心させられます。 子どもの頃にこういう本にもっと触れ合っていれば、いろんなことに興味を持 ち、学問上の「生物」や「科学」にも関心を持って勉強したかなぁと思ってし まいます。(私は理科が苦手でした・・・。)
 『クモのいと』(ポプラ社) 『パンサーカメレオン』(ほるぷ出版)
 『むしをたべるくさ』(ポプラ社) 『ほら、きのこが・・・』(福音館)
 子ども向けの本だけでなく、大人向けの本も一冊。
 さだまさしさんの『アントキノイノチ』(幻冬舎)はとても心に残りました。 まず、題名を見て「どんな本なんだろう…」と気になりました。似たような名 前の芸人さんもいるので、「お笑いの本かな…」と思いましたが、読んでみる と、人の心の内面を描く真面目なものでした。しかし、ところどころにユーモ アも散りばめてあり、読んでいて飽きませんでした。
 この小説の主人公は、高校生の時の友人関係がもとで心を閉ざしてしまった 21歳の青年です。私が感銘を受けたのは、主人公を取り巻く大人たち、父親・ 会社の上司・高校の先生が青年に向ける温かい言葉の数々です。子どもにも大 人にもなりきれない繊細で危うい心を持ち合わせている年頃の人たちにとって、 様々な価値観を、押し付けではなく時には導いたり時にはぶつけたりしてくれ る大人の存在があることがとても大切なんだなぁと感じました。読み終わった 後は、雲間から一筋の光が差し込んでくる時のような、温かで爽やかな気持ち になりました。まだ読んでいないという方は、ぜひ読んでみてください。


■第113回目  有澤 則子 さん(河津町立文化の家図書館)

 文化の家図書館では、読み聞かせをはじめ、いろいろなイベントを行ってい ますが、今回、初めて成人向けイベント「読書の会」を行いました。題材は、 河津も舞台となった「伊豆の踊子」を取り上げました。私は、4月に幼稚園か ら図書館に異動してきて、初めての事業ということ、また、読書会自体未経験 であったということもあり、緊張と不安でいっぱいでした。しかし、会を閉じ ると、受講者の方より「いろんな話が聞けてよかった。」「読み返したら(伊 豆の踊子を)以前読んだ時と感じ方が変わった。そういうことに気付けたこと も嬉しかった。」「また、この会に参加したい。楽しみにしている。」などの 声が聞かれ、胸を撫で下ろし、また次回の「読書の会」の展望が見えてきたよ うに思いました。
 講師をお願いした先生は、河津をこよなく愛し、河津を訪れた文豪たちのエ ピソードの引き出しを沢山持っていらっしゃる方なので、打ち合わせのときか ら貴重なお話を聞かせていただきました。河津は、山・川・海など、とても自 然が豊かな町で、私も大好きです。
 今回の読書会では、伊豆の踊子や川端康成先生の様々なエピソードを聞かせ ていただき、河津の新たな魅力に気付くと共に、ふるさと河津に誇りのような ものを感じました。そして、文豪に愛された町・文学のふるさと河津をもっと 町の人たちに伝えられたら…という思いが高まりました。


■第114回目  笹竹 由美子 さん(浜松市立浜北図書館)

 私が小学生だった頃、毎週のように通っていたのは旧天竜市の小さな図書館 でした。現在「登録有形文化財」にも指定されているその建物は、戦前に建て られた旧二俣町役場で、小さいながらもレンガ風の壁が印象的な特別な雰囲気 のある場所でした。しかし、子どもたちが集う児童室はその裏手に増築された スペースで、静寂とは無縁の明るく楽しい部屋でした。
 ある日、私は、ちょっとした好奇心から「大人の図書室」をのぞきに行きま した。しんと静まった室内、少し湿った空気、天井まで届くかと思われる書棚…。 それこそが、私にとって本当の意味での図書館初体験だったのかもしれません。 あの書棚に並べられているたくさんの本には、どんなことが書いてあるのだろ う?図書館には、その外観からは想像もつかないほどのたくさんの知識がつまっ ている。幼い私の心に、漠然とではあるけれども、畏敬をも含んだ図書館への あこがれが芽生えた瞬間でした。
 さて、現在。旧天竜市で図書館司書となった私は、合併後浜北図書館へ異動 しました。大きく近代的なこの図書館には、まさに世界中の知識が詰まってい ます。その膨大な知識の集積の中から、利用者の皆さんが本当に必要としてい る情報を探すお手伝いをする。そんな司書の仕事に誇りを感じながらも、実際 にはなかなか探しだせないこともありますが…。幼い頃のあこがれの場所で仕 事をしている、その幸運に感謝しつつ、利用者と情報とを結ぶ架け橋としてこ れからもがんばっていきたいと思います。


■第115回目  山本 かおる さん(松崎町立図書館)

 図書館に勤めて、1年半が過ぎました。以前から図書館司書という仕事に憧 れをもっていたので、このような機会に恵まれた喜びを日々感じながら働いて います。また、毎日様々な本に触れることが出来、本や利用者の方との素敵な 出会いがあり、毎日が充実しているなあ…と感じます。
 最近、とても興味をもって読んでいるのが、『不毛地帯(上・下)』です。 テレビドラマで放映されているので、毎週楽しみに観ていらっしゃる方も多い のではないかと思います。私が、この本を読むきっかけとなったのも、それに ついて利用者の方と話していたときに、「本読んでごらん!」と薦められたこ とでした。原作本には、ドラマとは違う面白さがあり、読み出したら夢中になっ てしまいました。戦争を体験した3人の男性の生き様がリアルに描かれており、 戦争体験がない私には、深く考えさせらせます。まだ最後まで読み終えていま せんが、今一番の楽しみです。
 このような出会いを、利用者の皆さんにも提供できるよう、これからも日々 業務に励んでいきたいと思います。


■第116回目  春元 健則 さん(浜松市立水窪図書館)

 私が水窪町役場の職員として採用された平成8年に、水窪町文化会館が開館 しました。その中に併設されたのが、旧水窪町文化会館図書室です。現在、図 書館担当の職員として勤めさせていただいて、非常に感慨深いものを感じてい ます。振り返りますと、文化会館ができるまでは図書室というには名ばかりで、 小規模のものしか水窪町には存在していませんでした。しかし、文化会館がで き、さらには平成17年の合併により浜松市となり、図書室から図書館へと、 名称が変わるとともに館内も充実してきています。
 水窪町は、気軽に立ち寄れる店舗もなく、特に若年層は友達との待ち合わせ や勉強の場に不便な点がありました。その点、水窪図書館は水窪町の真ん中に 位置しており、資料の提供は当然のことながら、町民のコミュニケーションの 場や情報提供の場として多方面にわたって重宝されています。今後は、より一 層水窪に関わる資料の充実を図り、老若男女問わず図書館を利用していただけ るような雰囲気作りに努め、田舎ならではの特色ある図書館にしていきたいと 思います。


■第117回目  清水 友香 さん(掛川市立中央図書館)

 現在の掛川市立中央図書館は、改築を経て平成13年6月に開館しました。 掛川城天守閣・御殿や二の丸美術館等に隣接し歴史を感じさせる落ち着いた雰 囲気の中にあります。
 私は、市役所一般行政職として何度か人事異動の後、当館へ配属となりまし た。図書館といえば、それまでは休日に本を借りに来るのが年に数回…といっ た程度で、初めに挨拶に来たとき予想以上に大勢の職員がいて驚いたのを思い 出します。そして、館内で来館者に本の貸出返却をするだけでなく、移動図書 館(そういえば、以前市役所で移動図書館の本を借りたことがありました。便 利です!)や、学校等への出前講座、レファレンス対応や館内講座・よみきか せ等、図書館には様々な役割があることがとても新鮮に感じました。
 何も予備知識がない中で、この2年半は本当にあっという間でした。これま で接することのなかった分野の本に触れることで私自身の読書の幅も広がりま した。図書館で働いた経験が今後の生涯学習につながればと思いつつ、より良 いサービスを目指して日々の仕事に取り組んでいるところです。


■第118回目  天野 進 さん(磐田市立豊岡図書館館長)

 居間にある書棚の本が最近変わった。高齢になった父が、自分の蔵書に入れ 替えたものである。これらの本は、いつの間にか子や孫の世代の本に追いやら れ、扉のある書架に入れられていた。詩集や小説等名作といわれる文学作品が 主である。奥付には自作であろう「天野蔵書」という手彫りの印が捺されてい る。昭和10年代から20年代にかけて出版された書籍であるため、紙質が悪い。 その上、日に焼けたこともあって、黄色というよりも茶色から褐色に変色し、 タイトルがよく分からないものさえある。私には、活字も古臭くてとても読む 気にはなれない。
 父は読み直したい本に入れ替えたつもりでいるが、読書量も年齢を重ねるご とに減ってきてしまっていて、この本を再読した様子はない。しかし、自分の 愛読した本を手元で見ることによって、その本を読んだ当時の激動した社会情 勢や、自分自身の心情までもが、懐かしい記憶としてよみがえっているのでは ないかと思う。
 書棚の茶色い色をした古ぼけた本に、父の青春の一端を垣間見た気がする。


■第119回目  山田 直美 さん(静岡県立中央図書館)

 県立中央図書館での勤務も2年目となりました。私は調査課一般調査係に所 属していますが、初めての図書館勤務でレファレンス経験ゼロの私も、異動し た4月からレファアレンスカウンターに座ることになりました。
 私が初めて受けた質問は、「『海辺のカフカ』はありますか?」でした。村 上春樹さんを好きな私への最初のレファレンスが、村上作品の所蔵確認とはな んて幸先がいい!と思ったのもつかの間、その後は先輩方に手助けしてもらい ながら、毎日冷や汗をかいてカウンターに座っていました。実は、今も自分が 全くわからない分野についてご質問があったときは、よくあせってしまいます。 検索するとき、依頼された方に漢字を教えてもらったり、どんな分野のことな のか教えてもらったりしながら調査を進めます。それらを通して、世の中には 私の知らない様々なことがあり、また様々なことを調べている方がいることに 驚き、感心してしまいます。また、最初は全く知らない分野のことでも、調査 をしているうちに私もすっかりのめり込んでしまい、調査終了後も関連本を書 架で見つけると思わず読んでしまうことがあります。「どんな質問にも受けて 立つ」という気構えでいますが、そのためにはもっといろいろなことに興味を 持ち、常にアンテナを高くしていなければならないと感じています。
 皆様いつでもお気軽にレファレンスをお寄せください。


■第120回目  山田 典世 さん(静岡市立清水興津図書館)

 仕事柄、なんとなく本や図書館を題材にした作品が気になってしまうのです が、特に印象に残っているのが、緑川聖司さんの『晴れた日は図書館へいこう』 です。晴れた日には子どもは外で遊ぶものと決めつけられることに疑問を感 じる、小学生の女の子の視点で、「60年前の延滞本」や「消えた本」など、 図書館を舞台にした小さなミステリーが描かれています。児童書なのですが、 図書館の職員としての心構えや、利用者のモラルにも触れられていて、読んで どきっとするのは、むしろ大人の方かもしれません。本と図書館が大好きな、 子どもと大人におすすめしたい一冊です。
 私の勤務する清水興津図書館は、海の近くに建つ生涯学習交流館の2階にあ ります。大きな窓いっぱいに広がる海の表情は日毎に違っていて、勤務6年目 の今でも、全く飽きることがありません。海を眺めながら読書の出来る立地は、 興津図書館の大きな魅力だと思っています。「晴れた日」はもちろん、そうで ない日にも、機会がありましたら、ぜひ一度お立ち寄りください。


■第121回目  米野 敦子 さん(静岡県立中央図書館)

 図書館に勤務して2年が経ちましたが、初めてこの職場を訪ねてきた時のこ とを今でもはっきりと覚えています。
 図書館の入り口を入ってウロウロ、キョロキョロ…。最初に目に入ったカウ ンターで、女性がニコニコとこちらに向かって微笑んでくれています。なんて ステキな図書館なのでしょう!足早に近づき、あいさつするのも忘れて「ここ でお世話になります!」って…。
 人の印象は、表情・姿勢で5割強が決まるそうです。私は、第一印象を大切 にしたいと思っています。初めて会ったあの日の女性職員のように、なるべく 笑顔でいようと心がけています。図書館の利用者との出会いの場面でも然りで す。だって出会いはいつも「一期一会」でしょう?!
 いろいろな事が上手くいくことばかりではありませんが、またこの図書館に 来たいと思ってもらえるようなサービスをしたいと日々思っています。
 以前、一緒に勤めたことのある女性がいつも口にしていた言葉があります。 「天に星、地に花、人に愛」それが実篤であろうと高山樗牛であろうと、その 女性がそれをいつも心に留めて笑顔で過ごしていたことにとても感動しました。 こんな女性職員にいつかなれますように…。


■第122回目  大塚 絵巳 さん(静岡県立中央図書館)

 この3月末までの4年間、メールマガジンを担当してきました。毎月2回× 12(ヶ月)×4(年)=96(回)の発信作業を行ったことになります。特 に、リレーエッセイでは、こんなにたくさんの方のご協力をいただいたんだな あ…と感慨深いものがあります。私のうっかりで、短い期間での原稿作成をお 願いしたことも多々ありましたが、皆さんのご協力で一度もリレーが途切れる こともなく続けることができました。
県内の図書館の皆さんと関わらせていただいて、「図書館の資料をいかに有 効に利用者の方々に提供できるか」と、努力されている姿が一番印象的でした。 書架の整理はもちろん、展示コーナーでは季節や時事ニュースに合わせて、い ろいろな資料を紹介しています。図書館に入ると、当たり前のようにいろいろ なテーマの展示がされていますが、テーマを考え、それにあった資料を探すの は職員の皆さんです。展示コーナーに立ち寄り、普段手にしない本を何気なく 手にとって、利用されたことがある方も少なくないのではないでしょうか。そ れを見て、心の中でガッツポーズをしている職員の方がきっといると思います。 お近くの図書館へお出かけの折には、そんな職員の方のお薦め本に乗っかって みるのも一興ではないでしょうか。
 この発信号をもって、当館はシステム更新を迎えます。次号(5/14発信) からの、リニューアルしたメールマガジンも、ぜひ引き続きご愛読ください。