「こんな図書館にしたい」「私の出会った図書館員」「心に残るこの1冊」
など、図書館員の“おもい”をリレー形式で紹介していきます。
■第21回 後藤晶子さん(掛川市立中央図書館)
私が図書館で働き始めた頃に、よく図書館を利用していた、忘れられないお
じいちゃんがいる。「これをなにしてください。」「あれをなにしたいんだが」
とすべてが暗号で、私たちの間では通称「なにしてのおじいちゃん」と呼んで
いた。歴史や郷土に関することを調べに来られていたのだが、80歳は超えてい
たと思う。もう目がよく見えないから、自分の代わりに調べてくれとよく声を
かけられた。
当時、図書館に入りたてで、右も左もわからない状態だった私は、人に何か
を聞かれることにとても恐怖を感じていたのだが、おじいちゃんは、時間にゆ
とりがあったからかもしれないが、たどたどしい私を寛大にも待っていてくれ
た。『故事類苑』と『群書類従』の調べ方を教えてくれたのは、このおじいち
ゃんだった。あの時、私はおじいちゃんに図書館員として育ててもらっていた
のだと感謝している。
またある時、たぶん疲れていたのだろう、図書館からの帰り道に道端にしゃ
がみこんでいる姿を見かけた。それでも調べにみえた。おじいちゃんには生涯
学習する姿をも学ばせてもらった気がする。
おじいちゃんに会わなくなって久しいが、利用者の方に育ててもらっている
こと、学ぶ楽しみを忘れずにこれからも仕事に励みたい。
■第22回 川村美穂さん(御前崎市立図書館)
御前崎市立図書館(旧浜岡町立図書館)が開館して12年。幸運なことに、短
大卒業時ちょうど図書館設置に合わせた正規職員採用があって、即応募して現
在に至ります。就職が決まったときには「誰も行かないよ、図書館なんて。」
と言われたものですが、その予想は大きく外れて、オープン当日は目の回るよ
うな忙しさだったことを覚えています。
自分が子どもの頃に図書館があったらよかった、という羨ましさから、児童
コーナーの担当を志願して何年かたちました。私が素敵な本に出会えたように、
子ども達のとびきりの1冊を見つけるお手伝いがしたいと思ったのですが、や
っぱり現実はかなり厳しく…。でも、今年度は小学校の巡回訪問貸出しや子ど
も読書推進計画策定も始まった、私にとって嬉しくて忙しい年でした。これを
もとに、1人でも多くの子ども達が、自分だけのお気に入りに出会えるような
活動ができたらいいな、というのが現在の野望ですね。
年度末なので、異動のないことを心の底から願って。
■第23回 松下明美さん(牧之原市立相良図書館)
本の思い出となると小学校の頃夢中で読んだコナン・ドイルやジュール・ベル
ヌ作品。図書室に行けば、わくわくどきどきが私を待っていました。高校では授
業で知りたくなった事柄をすかさず百科事典で調べては、理解した気になり一人
満足していました。あの静けさも好きでしたね。
この小さな図書館にも、好きな作家の作品を探したり、小学校、保育園、中学
校も近いので子ども達も集まり、夢中で読んでいる姿があります。本は手に取り
開いた分だけその世界を楽しめる自分だけの時間。図書館にはインターネットの
手軽さと違う、選ぶプロセスや空間の良さがあります。ひとりひとりの良い時間
を満足できるものできればと思います。相互貸借システムにより、他館から本を
お借りできるため、お客さんの興味をさらに満たすことも出来るようになりまし
た。狭いなりにも、地の利を生かし、他館にも協力いただきながら、立ち寄り易
く、夢中になれる本、落ち着く場が提供できるよう工夫していきたいと思ってい
ます。
■第24回 植村和広さん(焼津市立図書館)
幼い時の私の読書は「乱読」であった。幅広いジャンル、といえば聞こえが良
いが、要は節操が無かっただけだったと思う。図書室の本棚の端から端まで順番
に読んでみたりもした。どうも読んだ本の冊数がステータスだと勘違いしていた
ようで、友人と「どちらが速く貸出カードを埋められるか」なんて競争したりも
した。ただ、新しい知識を吸収するということはこの上なく面白く、いつしか競
争が終わってもやっぱり私は本を読み漁っていた。あの頃から20年近く経った
が、今も私は「乱読家」である。小さい時の習慣(あるいは悪癖)はそう簡単に
治るものではないらしい。
今、図書館の貸出カウンターに、色々な種類の本を山のように積み上げる子ど
もを見ると、幼い時の自分と重なる。将来、この中から図書館員としてカウンタ
ーの中に座る子が現れるかもしれない。そしてその時私は、貸出カウンターに色
々な種類の本を山のように積み上げるおじ(い)さんになっているのだろうか。
■第25回 内田和美さん、杉山英子さん、難波由香さん(伊豆市立図書館)
伊豆市立図書館として新たなスタートをきり1年が経ちました。
現在、市内の図書館では中・高生層以外の利用がほとんどで、若い世代の図書館の利用
率が低い状況です。そこで、図書館とヤング・アダルト世代の子どもたちとのコミュニケ
ーションをどのように図るか、若い世代の文字離れをいかに少なくするか・・など、これら
について職員会議で検討した結果、中学生にブックリストを配ろう!ということになり、
図書館情報新聞「ざ・ぼん」(年2回発行)を今年度から作成していくことになりました。
10代の子たちに、これは読んでみたい!と思わせるような図書を選び、紹介文を書く
のはなかなか大変です。また、市内4館で1つのものを作ることが初めてなので、思うよ
うに打ち合わせが進まず苦労しました。しかし、レイアウトが決まるとスムーズにことが
運び、会心の作となりました。
若い世代の子たちが来館するきっかけになってくれるよう、これからも職員一同心をこ
めて作っていきたいと思います。
■第26回 大塚絵巳(県立中央図書館企画振興課メルマガ担当)
この4月より、県立中央図書館に勤務することになりました。利用者だった
立場から、図書館の運営にかかわるようになって10日ほど経ちましたが、こ
れまで当たり前のように受けていた図書館サービスの裏側を知り、毎日が“驚
き!!”の連続です。
そんな中で、今一番楽しみにしているのは、県内各地の図書館を訪問できる
ことです。県立中央図書館は、市町立図書館を定期的に巡回することによって、
情報交換をしたり、図書の貸し借りの仲立ちをしたりしています。地域に根ざ
した温かい図書館や、それを支える方々との新しい出会いにワクワクしていま
す。じつは、パソコンが大の苦手な私ですが、このメルマガが、皆さんにとっ
て素敵なことに出会えるきっかけになるといいなあと願いつつ、次号からもパ
ソコンと格闘していきたいと思います。
■第27回目 新 出〔あたらし いずる〕さん(静岡県立中央図書館司書)
図書館で働きはじめて1年が経ちました。図書館は、利用者の方に「ありが
とうございました。」と感謝されることが多い職場だとしみじみ感じます。こ
れは図書館員としては大変うれしいことですが、感謝されて当然のこととは思
わないようにしています。というのは、利用者のニーズに対して図書館員がサ
ービスで応えるのは当然のことだからです。
さて、県内の図書館職員の方から問い合わせや協力貸出の依頼をされる際な
ども、「ありがとうございました。」と感謝されることが多くあります。これ
もまた、私に同様の想いを抱かせます。昨年水戸で行われた全国図書館大会で、
日図協障害者サービス委員会の佐藤聖一さんが「障害者に対する図書館サービ
スは特別なものではなく、ましてや恩恵的なものではない。」と発言されてい
ましたが、これはもっともなことだと思いました。同様に県立図書館の市町立
図書館に対するサービスも決して「恩恵的」なものではないからです。県内図
書館へのサービスとは、結局のところ県民へのサービスに直結しています。利
用者の方々は市・町民であるとともに県民でもあるのですから、これは市町立
図書館がやる仕事だから県立がやる必要はないという姿勢ではなく、市町立図
書館と県立図書館がトータルでどれだけ良いサービスを提供できるかというこ
とを考える必要があるのでしょう。
というわけで、県立図書館に対しては「ありがとうございます。」だけでは
なく、時には「これはこうしてほしい。」「もっとしっかりやってよ。」とい
った批判や意見が活発にやり取りできるようになってこそ、図書館サービスの
向上があるのだと思います。県民と県内図書館職員の皆さんにより信頼される
図書館になれるよう、精進に努めたいと思いますので、何かの機会に見かけた
ときにはお気軽に声をおかけください。
■第28回目 鈴木 由美さん(静岡県立中央図書館司書)
前回の新さんと同じく、県立中央図書館2年生の鈴木由美と申します。現在は主に子ども図書研究室を担当しています。念願の児童担当ということで、毎日楽しくて楽しくて、時々は自分の力不足に落ち込んで、また復活して、という日々を過ごしております。
子ども図書研究室は子どもと本とを結びつける活動をしている大人の方のための研究室で、関連するテーマでの講座、講演会も実施しています。今月26日(金)には、東京子ども図書館理事の池田正孝先生をお招きして、スライドとお話で「ピーターラビットの世界」と「ホフマンのグリム童話の世界」をめぐる講座を開催します。今年はビアトリクス・ポター生誕140周年の年に当たります。お忙しいとは存じますが、是非当館で児童文学作品の世界に触れるひとときをお楽しみになりませんか?
詳しいご案内は、今号及び前号のメールマガジン、当館HP、各図書館で配布していただいているちらし等をご覧いただくか、当館までお気軽にお問い合わせください。
6月には、明星大学教授の宮川健郎先生をお招きしての講演会も予定しております。こちらもどうぞお楽しみに!
■第29回目 鈴木 里香さん(松崎町立図書館)
小学生の頃、自分の本の中で一番好きな「よだかの星」から市蔵と名前をつ
けたネコを飼っていました。名前の由来に気づいてくれる人はいなかったけれ
ど、ひとりだけの秘密を持っているようでうれしかったです。図書館の本は、
過去に手に取り読んだ人のかすかな痕跡が感じられて、見知らぬ人と、同じ秘
密を味わった気がするのは私だけではないと思います。おもしろい本だったら、
先に読んだ人に尊敬を、がっかりした本には、お互い時間を無駄にしたよなと
肩をたたきたい気分に。自分だけの本もいいけれど、雨の日にぬれないようギ
ュッと胸に抱きかかえられて返却される図書館の本も誇らしげに感じます。
時々、一瞬でもっとたくさんの人に愛される松崎町立図書館になる魔法でも
あればと思ったりしますが、ゆったりした町の時間に合わせ、少しずつ豊かな
図書館になるよう努力していきたいと思います。
■第30回目 鈴木 康子さん(松崎町立図書館)
「ピンクレディー」→「ピアノの先生」→「国語の先生」→「司書」以上は
私の将来の夢の変遷である。
小・中学校の図書室に司書教諭は存在せず、高校で司書という資格・職が
あることを知った。絶対になる!と心に決め進学するも、その機会もないまま
時が過ぎていった。しかし、その想いが途絶えることはなかった。
いつかは図書館で・・・という執念?の結果、10数年の時を経て1年9か月
前に将来の夢を叶えることができた次第。自分のやりたいことが出来ることに
幸せを感じる反面、司書であることもはばかられる程の能力に嫌気がさすことも
しばしば。
子供の頃、今日は何を読もうかと図書室で本を探す時の気持ち。それを抱え、早く
読みたいなと帰りを急ぐお楽しみ感。こんな気持ちを子供達にも感じてほしい。
この思いで能力をカバーしつつ、一人でも多くの人に「図書館に行きたいな」と
思われる、魅力ある図書館を目指したい。これが私の現在の夢。