「こんな図書館にしたい」「私の出会った図書館員」「心に残るこの1冊」
など、図書館員の“おもい”をリレー形式で紹介していきます。
■第11回 島野陽子さん(浜松市立雄踏図書館)
小さい頃、よく町の図書館へ出掛けました。名前は図書館でしたが、実際は
公民館の中にある図書室で、常に無人でした。(職員はもとより、利用者にも
滅多会わない)小・中学校の図書室にも専任職員はいませんでした。だから、
図書館員という職業があると知った中学生の時は正直驚きました。しかも資格
があるなんて。
夏休みになると学生が職業調査(というのでしょうか?)で図書館を訪れる
ことがあります。先日も高校生の女の子に「どうしてこの仕事を選んだのです
か?」「嬉しいのはどんな時ですか?」と真面目に質問され、はたと思いまし
た。
当たり前なのですが、今図書館を利用してくださっている方にとっては私た
ちが(私が)いるということ。それが、私が過ごした子ども時代のように無人
の図書室と同じでは意味がありません。勿論図書館自体も変化しています。そ
れでも人がいる意味をしっかり守りたいと思いました。
■第12回 岡本由紀子さん(磐田市立豊田図書館)
図書館がなかった町に図書館ができ、今年は合併して更に大きな図書館にな
りました。開館当初から働いているので、かれこれ十・・・年経ってしまい、
時の経つのは早いものだとシミジミする場面が沢山あります。カウンターの高
さより小さかった子どもたちが私の背丈より大きくなったり、小学生で元気一
杯だった女の子が彼氏をつれてきたり、中性的だったはずの男の子はそりゃぁ
もう立派な男性に変身していたり。彼らの成長は眩しくて、思わず顔もほころ
びます。一方彼らから見たら、私は「まだ、いたの?」ってな具合で、老けた
なぁなどと思われているんだろうなぁと複雑な気分。でも、図書館員のいい所
はこの長いお付き合いができるところだと思います。赤ちゃんの時からずっと
知り合い。保護者でもなく、利益の伴った関係でもなく、先生でもなく・・・
中立的な立場の大人。子どもたちの側で働く魅力的な大人でいたいなぁと常々
思っています。
■第13回 近藤経子さん(磐田市立竜洋図書館)
図書館に勤めてわかったのですが、現在図書館に「定番」として置いてある
類の本を、私はこども時代にほとんど読まずに育ちました。とはいえ、両親が
買ってくれた、こども向きに訳された文学や「まんが学研のひみつシリーズ」
など何度も何度も読み返し、興奮し、新しい興奮を求め足繁く学校の図書室に
通ったものです(当時、学校図書室が唯一の「本に浸かれる場所」でした)。
図書館に通うきっかけが何であれ、本の世界で泣いたり笑ったり夢見たり空
想にふけったりする時間をたっぷり持ってもらえたら…。毎日・毎週のように通
ってきてくれる子どもたち(かつての子どもも含む)やお年寄りの方々を見ると、
開館して十数年、まずまずの成果かなとうれしくなってきます。
時とともに図書館に求められるサービスは変化していますが、市民に一番身
近な図書館として、利用される方々の望む資料を揃え、ご要望に応えられるよ
う、このエッセーを書きながら思いを新たにしました。
■第14回 坂下朝子さん(静岡市立中央図書館)
図書館で働きたいという子どもから、「図書館で働いていてよかったと思う
ことはどんなことか」と訊かれ、「お客様に喜んでもらえること」と答えた。
図書館サービスの中にレファレンスという調べものや探しもののお手伝いを
するサービスがある。一般の方にはまだまだ知られていないようだが、レファ
レンスの常連さんもいらっしゃる。その中の一人Rさんはあることを研究して
いて、度々手強い質問をしてくれる。
先日Rさんから「やっと終りました。15年間本当にお世話になりました」と
感謝の言葉をいただいた。Rさんの期待を裏切ることなく、レファレンス業務
をやってこられたことにホッとし、うれしかった。これからも一人でも多くの
方にとって役立つ図書館を目指していきたい。
Rさんは研究成果を本にされるとのこと。「本ができたら、気が抜けちゃい
ますね」と言ったら、「いえいえ、これをみんなに知ってもらう為にがんばら
なきゃ」とおっしゃられ、そのバイタリティに脱帽した。
■第15回 堀内千穂さん(焼津市立図書館)
「善良な子供のように無邪気で、物事があけっぱなしで、従順で、親切で、
過ぎると思うほどの正直者」とは、ラフカディオ・ハーンこと小泉八雲が、『焼津にて』
の中で焼津の人々を表した一節である。ご存知の方も多いと思うが、小泉八雲
は、日本で過ごした14年間のうち6回の夏を焼津で過ごしている。当時(明
治30年頃)の焼津は辺鄙な漁師町だったが、焼津の海と人々の素朴な人柄が気
に入り毎回1ヶ月ほど滞在し、いくつかの作品も残している。妻・セツが『思
ひ出の記』の中で「ヘルンの好きなものをくりかへして、列べて申します
と、西、夕焼け、夏、海、・・場所では、マルティニークと松江・・それから焼津、」
と綴っているように、八雲にとって焼津は、あらゆる束縛から開放され、好き
なことを楽しむ「癒しの地」となっていたのだろう。
さて、焼津市立図書館の郷土資料室には、八雲関係の著作を集めたコーナー
を設けている。また毎年、八雲文学に関する文芸作品を募集し、八雲文学の普
及に努めている。これからも、八雲が愛した焼津の地に相応しい、誰もが気軽
に足を運べる・親しみ易い図書館を目指し、前進していきたいと思う。
■第16回 増田祐子さん(吉田町立図書館)
吉田町の図書館では、毎年、絵本作家さんによる講演会を行なっています。
今年は、いつもとは違い講演会ではなく、子ども向けの“絵本ライブ”(読み
聞かせ・歌・クイズなどを取り入れた“おはなし会”のようなもの)を開催し
ました。
絵本ライブを見るのは始めてだったので、「こんな見せ方があるんだ」「こ
れなら私にもできるかな」など、最初から最後まで感心しっぱなしの1時間で
した。図書館の“おはなし会”では途中で飽きてしまう子どもたちも、ライブ
中は「もっと読んで」「この次は○○の本にしてよ」と、自分たちから先生に
読み聞かせの催促をする場面も見られ、とても驚きました。会場の様子を見て、
読み聞かせは子どもたちの要望や会場の様子を見ながら、子どもと一緒に進め
ていくことが大切だと改めて感じました。
今回のライブで見られた、子どもたちの楽しそうな顔が、職員の行なう“お
はなし会”でも見られるように、これからも読み聞かせについてもっと学んで
いきたいです。
■第17回 山梨のぞみさん(大井川町立図書館)
図書館員になり十数年。家事・育児・介護・仕事のやりくりに疲れ、「もう
辞めよう」と思ったことは何度もある。でも…、「やっぱり、辞めたくない」
と思う。
つらいことも有るが、嬉しいことも有る。家族が入院した病院で、担当の作
業療法士として現れたのは、小学生から図書館利用者だったM美ちゃんだった。
心強く、立派な姿に感心した。
レファレンスで情報を提供できた。探していた本を手渡した。−それはもち
ろん図書館員としての「喜び」なのだが、こんな再会が図書館員を続ける力を
くれる。そう、「利用者さん」に力をもらっているのだ。小生意気な女子中学
生は保母さんとして、はなたれ小僧は社会人として現れる。他人なのだが、成
長が嬉しい。単純かな。
■第18回 相澤美津子さん(菊川市立小笠図書館)
図書館勤務になって早7年が過ぎようとしている。異動辞令が出て初めて、
わが町の図書館建設計画を知り、その準備から建設まで携わって欲しいとのこ
とだった。当時、司書資格を持つ職員は私一人だったが、実務経験が全くない
私にどれだけのことができるか不安は尽きなかった。そんな中、県立中央図書
館の現職課長が館長として赴任し、新採の職員、嘱託員等を含め、総勢6人で
建設準備を進めていくことになり、平成14年1月、念願の開館に扱ぎつけた。
苦労して建設した図書館だけに、図書館に対する思いは人一倍強い。どこの
図書館にも負けたくない、利用者に喜ばれるサービスを展開していかなければ
という強い信念を持ち続けて来た。
その後、自治体合併で菊川市になり、市内に二つの図書館が誕生した。ここ
でよくわかったことがある。それは、利用者は自分にとって利用しやすい図書
館を選択するということ。図書館が選ばれるのは、主婦が多少遠くても、1円
でも安いスーパーを捜して行くのと同じ。今まで以上に充実した図書館サービ
スを提供しなければ、利用者(=顧客)から見捨てられてしまう。利用者に愛
され信頼される図書館員を目指し、あれもしたい、これもしたいと、いろいろ
思い悩む今日この頃。
■第19回 澤島由基乃さん 掛川市立大須賀図書館
司書としての私は、2冊の児童書からできあがったと思っている。
1冊は、『Madeline in London』という絵本。2001年に、「ロンドンのマド
レーヌ」(江國香織訳)として出版されたので、ご存じの方も多いかと思う。
幼稚園から小学校にかけて、ベーメルマンスの「マドレーヌ」シリーズが大
好きで、それこそなめるように隅々まで読んでいた私は、〈作者紹介〉のペ
ージにただ1冊だけ英語で紹介されていたこの本を読みたくて読みたくてたま
らなかった。当時翻訳されていなかったこの本は原書も入手できない状態で、
長年の間、私のあこがれの1冊だった。もしかして、児童文学科のある大学図
書館なら所蔵しているかも…、そんな気持ちで入学した大学で出会ったのは、
この絵本と、「司書」への道だった。
もう1冊は、男の子がチューインガムや、ぼうつきキャンディを持ってりゅ
うを助けに行く話。言わずとしれた?『エルマーのぼうけん』なのだが、小
学校の図書室で読んだこの物語のタイトルが、どうしても思い出せなかった
のだ。中学生になったある日、町の図書館で、"図書館のおばさん"に、「こ
んなおはなしだった」ということを必死で伝えてみた。すると"おばさん"が
にっこりと差し出してくれたのが、まさにこの本だった。この時の感激は今
も忘れられない。
靴店には「シューフィッター」という専門家がいて、その人その人にぴっ
たりの靴を勧めてくれる、という話をきいたことがある。2冊の児童書に背中
を押された私の、司書としての究極の理想は、お客様と「私の1冊」となるよ
うな本とを結びつけられる、「ブックフィッター」なのである。
■第20回 平出聡美さん 菊川市立図書館菊川文庫
小学校高学年の頃、私の最大の楽しみは、市立図書館で本を借りる事だった。
そこには、学校の図書室や町の書店にはない魅力的な本がたくさん揃ってい
た。ドリトル先生シリーズやリンドグレーンの作品集、大草原の小さな町シリ
ーズなど。週末が待ち遠しくてたまらなかった。その時の体験から、図書館で
働く人になりたいと思ったのだ。しかし、ひとつ読みたくてたまらなかったフ
ァージョンの作品は探しても探しても見つからなかった。そのうち中学生にな
り、図書館にいくのをやめてしまった。念願かなって図書館に就職したら、そ
こにファージョンの作品があった。借りてみたが大人になった私には、読めな
かった。本には読む時期があるのだということがわかった。今、本を探すのに
はいろいろな手段がある。が、やはり最終的な決め手は、実際に手にして、頁
をめくることではないかと思う。読みたい(必要な)時に、必要な人に必要な
本を提供できるよう日々努力したい。